序列主義の異能学院

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「私と神楽坂くんでこれほど差があるとはね」

 床に座り込み模擬戦を振り返る氷堂。
 実力差を感じているようだがオレが最後に繰り出した『零蛇の双牙(ブリザード・ファング)』は集団序列戦で糸巻に対して発動した『零龍の隻腕(ブリザード・クロウ)』に匹敵する大技だ。
 それを初見で相殺してみせたのだから大したものだ。
 氷堂はどうも目標が高すぎるが故に人より自己評価が低くなってしまう傾向にあるらしい。

「氷堂は2時間近く特訓していたんだ。万全の状態で戦っていたら結果は分からなかったと思うぞ」

「慰めはいらないわ。私と神楽坂くんの間には埋まらない何かがあるって理解したから。それで、私が強くなる為には何が必要か分かった?」

「前提として氷堂は十分強い。氷狼騎士(フェンリル・ナイト)という武装系の技を身に付けたことで戦いのステージが一段階上がった。今なら上級生とも互角に渡り合えると思う」

 贔屓目無しの率直な感想に氷堂の顔が歪む。
 聞く人によれば褒め言葉と受け取れる内容だが、より高みを目指す氷堂は違う意味で解釈したみたいだ。

「互角じゃ意味がない」

 互角とは相手との力量の差が無いことを指す。
 つまりはどちらに勝敗が転ぶかは分からないということだ。
 上級生と大きく括った言い方をしたが、序列上位陣で構成している生徒会や紫龍と溝端、それに並ぶ実力者たちに現段階では届いていない。
 まあ氷堂が倒すべき相手は上級生ではないのだが。

 三代財閥の鷲崎と暁、この2人との実力差を埋めるには経験豊富な上級生と模擬戦を重ねるのも1つの手だ。
 月が変わったから下剋上システムを使ってバトルを仕掛けるのも悪くない。
 が、もし敗北して序列が下がってしまったら新人戦に出場する権利そのものが危うくなる。
 それでは本末転倒だ。

 とりあえず今後の計画を練りながら氷堂に答えを提示するとしよう。

「氷堂に足りないものは他を圧倒する矛だ」

「他を圧倒する矛?」

「名が知れ渡っている強者には他の人には真似できない固有の武器がある。分かりやすい例を挙げると馬場会長は魔剣・蒼蛇剣(オロチ)を武器にしている」

「理解はできるけど魔剣は魔剣に選ばれた人しか使えないはずでしょ。私には扱えないわ」

「異能力でもいい。氷堂、直感で答えてくれ。火と水はどっちが強い?」

「水よ。火は水をかければ消えるもの」

「そうだな。日常での経験から一般常識として人々の脳にそう擦り込まれている。だが、異能力に関して言えば答えはNOだ」

 氷堂が首を傾げてぶつぶつと独り言を呟き始めた。

「確かに相性は火の異能力の方が悪いけど戦い方によっては勝てる可能性も……」

「火の異能力を極限まで極めればあらゆる水の異能力技を蒸発させて無に還すことができる」

 火の異能力と水の異能力を共に極めた場合、軍配はより異能力を極めた方に上がる。
 他を圧倒する矛、人には真似できない固有の武器。
 異能力を極めた果てにあるのは『異能力領域の展開』。
 学院では生徒会副会長の榊原(さかきばら)先輩が習得している。
 短期間での成長速度を見るに、ここから時間はかかるかもしれないが氷堂ならその領域に届くかもしれない。

「私も氷の異能力をさらに極めれば——」

「鷲崎と暁を破る武器になる。その為にはより実戦的な環境に身を置く必要がある」

「何をすればいいの?」

「オレが何人か選抜するから氷堂はその相手と模擬戦をこなしてくれ」

「分かったわ」

 強くなるためならと氷堂が頷いた。
 氷堂と同レベルとなると人選が難しいが急成長している生徒も含めて何人か当てはある。

「それと目先の目標を定めたいと思う」

「目標?」

「8月末に下剋上システムで敷島と戦って序列3位に上がる。ひとまずこれを目標にしよう」

 1学年の序列は上からオレ、暗空、敷島、氷堂となっている。
 1つ上の敷島を倒せないようでは三代財閥を相手にするのは夢のまた夢だ。
 防御に特化した敷島を破る矛を身に付けたとなれば氷堂も少しは自身が持てるだろう。

 私立鳳凰学院、聖帝虹学園。
 この2校とは文化祭に向けた合同会議で接触することは確定している。
 鷲崎と暁がそれぞれの高校で序列上位であれば顔を合わせるのもそう遠くはない。