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「週末に実技訓練を行う」

 訓練していた英雄候補生をグラウンドに集め、今後のスケジュールについて話すことにした。
 先日行われた魔族討伐部隊クリムゾンの緊急会議。
 そこでオレは英雄候補生を英雄にするプランを明かした。
 今回の実技訓練は生徒の成長に欠かせないものになるだろう。

「実際に戦地に赴き、魔族を討伐しながら目標の地点に向かって貰う。これまで個人技を磨いてきたと思うが今回は2チームに分かれたチーム戦だ。目標地点に早く着いたチームを勝利とする」

 三獣士の襲撃で味方同士の連携の重要性は身に染みているはずだ。
 神能を宿さない魔族討伐部隊の隊員も連携が取れていれば下級の魔族を危なげなく討伐することができる。

「チームメンバーはどうやって決まるのでしょうか? 僕達は7人なので人数に偏りが出ると思いますが」

 いつもながら五色が不明な点を詰めてくる。

「週末までの訓練の様子を見てオレが決める。4対3になるが実力差が均等になるように考慮するから心配しなくていい」

 亜紀を3人の方に振り分ければある程度バランスが取れる。
 人数差は大して問題にならない。

「最後に勝利したチームの中で優秀な成績を残した生徒は魔族七将・氷狼のヴォニア討伐作戦に参加する権利を与える」

『「!?」』

 生徒の顔色が変わった。
 恐怖で顔を引き攣らせる者と復讐に目を輝かせる者。
 対照的な反応なだけに見ていて面白い。

「優秀な成績とは具体的に言うと魔族の討伐数ですか?」

「二階堂の言う通りだ。それに加えてチームのサポートも評価の対象に含まれる」

「なるほど、あくまでもチーム戦というわけね」

 評価を目当てにチームを置き去りにして目標地点に単騎で向かうことを阻止する狙いがある。
 戦場で自分勝手な行動を取る隊員は邪魔でしかないからな。

「出現する魔族のレベルは下級から中級と考えてもらっていい。チームは実技訓練の当日に発表する。伝達事項は以上だ」

 とは言ったものの急な実技訓練の発表に生徒は消化し切れていない様子。
 安全区域が襲撃に遭ってから日が浅いだけに色々と思うところもあるだろう。
 だが、こちらも悠長に構えていられるほど余裕はない。
 魔族七将・氷狼のヴォニア討伐作戦が動き始めた以上、戦力の補強は急務だ。

「三刀屋先生、少しアドバイスを貰いたいんですけどいいですか?」

「ああ、大丈夫だ」

 二階堂兄が剣を片手に声を掛けてきた。
 向かう先はグラウンドの隅に鎮座する巨大な岩。

「何度も試してはいるんですけど割れる気配がなくて」

 岩の先端には何度も剣を叩き付けた形跡がある。
 相当な数を打ち込んだのか所々砕けている箇所も見受けられる。
 腐らずに1ヶ月以上この岩と向き合った証拠だ。

「普段通りに打ち込んでみてくれ」

「分かりました」

 二階堂兄が巨岩の正面に立ち、剣に炎を纏わせる。
 呼吸を整えて精神を岩に集中させる。
 そして、一振り。
 炎剣は真っ直ぐ岩へと振り下ろされ、ぶつかった瞬間に火花が散った。
 威力は十分だ。
 ではなぜ岩が割れないのか?

「悪くないと思うぞ」

「でも1ヶ月ずっとこの調子なんですけど」

「星夜は岩を縦に真っ二つに切るイメージを持っているんだよな?」

「はい、三刀屋先生に岩を切れと言われたので」

「そうだ。だがオレは岩を切れとしか言っていない。縦に、とは一言も言っていないぞ」

「それはそうですけど」

 二階堂兄がオレの発言を思い出して渋い顔をする。

「物体を切れと言われたらまず縦に切ろうとするのが一般的だ。これは幼少期からの刷り込みで薪を割ったり、包丁で野菜を切ったりするシーンを身近に見ているからだ」

 オレは二階堂兄から見て岩の十時の方向に手を当てた。

「物体にはそれぞれ力の伝わりやすい角度が存在する。ここから斜めに岩を切ってみろ」

「はい」

 二階堂兄が再び精神を集中させる。
 空気を吐き出し、剣が炎を帯びる。
 一閃。
 岩は両断され、片方が滑り落ちた。

「訓練を続けて戦闘の場数を踏めば星夜もピンポイントで力が伝わる角度が分かるようになるはずだ。この能力を身に付ければ魔族の弱点を感覚的に察知することが可能になる」

「凄い……より一層訓練に励みます!」

 二階堂兄が剣に炎を纏わせたまま素振りを始めた。
 一口に魔族と言っても機械族のような強固なボディーを持っている個体も存在する。
 そういった敵と対峙した時、二階堂兄の神能の武装化の能力は真価を発揮するだろう。