—1—

9月5日(水)午後9時21分

「次の選別ゲームがいよいよ最後のゲームになります!」

 そう言って織田がホワイトボードを回転させると、あみだくじが現れた。
 あみだくじの選択肢は、当然生存者4人分だ。
 ホワイトボードの下半分が黒い紙で隠されているため、これで何を決めるのかがわからない。

「なんなのこれ?」

 小町がホワイトボードを指差す。
 由貴も健三もホワイトボードの前まで集まってきた。

「このあみだくじは、次のゲームで皆さんに座って頂く席を決めるためのものです」

 織田がそう説明しながら、あみだくじの4本ある縦線の下の部分に1、2、3、4と数字を書き入れた。
 そうこうしている間に武装した政府の人間が机と机をくっつけたり、使わない椅子をどかしたりと次のゲームの準備を始めていた。

「その数字は?」

「最終ゲームは1対1で行う対戦形式のゲームです。あみだくじの結果が1か3だったら先攻になり、反対に2か4だったら後攻になります」

 由貴の質問に織田が答えた。
 なぜ、あみだくじを行うのか理解したが、肝心のゲームの内容までは教えてくれない。

「あみだくじは分かったんですけど、対戦形式のゲームって具体的に何をするんですか?」

 健三もゲームの内容が気になっていたようだ。
 健三だけじゃない。小町も由貴も気になっているはずだ。
 全員の視線が織田に集まる。

「ゲームの内容は、あみだくじが終わってからお伝えします。さあ、お好きなところにご自分の名前を書いて下さい」

 ホワイトボードの横に立っていた清水から黒色のペンを受け取る。私は右から2番目に名前の頭文字である『凛』と書き入れた。

 ゲームの内容に関してここまで分かったことと言えば1対1の対戦形式ということだけ。
 つまり、ゲーム終了後にこの教室の空気を吸えるのは2人ということになる。

 生き残る確率は2分の1だ。

「それでは一斉に見てみましょう」

 織田があみだくじを覆っていた黒い紙を剥がした。
 現れた複数の横線。

 それぞれが自分で選択したあみだくじの結果を目で追っていく。

「2か」

 2ということは後攻だ。
 今回のゲームがまだ判明していないため、後攻が良いのか悪いのかも分からない。とてもリアクションが取りづらい。

 まあいい。とりあえず他の人の結果も見ておこう。私と対戦するのは1だった人だ。

「これは運命? ううん、神様が私に凛花を殺すチャンスを与えてくれたんだ」

 1を引き当てたのは小町だった。
 口角を少し上げ、鋭い視線が私の目を捉えて離さない。

 私の対戦相手が小町ということは、由貴と健三が戦うようだ。

「小町さんと凛花さんは、廊下側後方へ。健三さんと由貴さんは、窓側前方まで移動してください。先攻の方が廊下側の席になります」

 織田にそう言われ、武装した政府の人間が作ったバトルフィールドへ移動した。
 と言っても、2つの机が向い合うようにくっつけてあるだけだ。

 先攻の小町が廊下側の席に、後攻の私は小町の向かいの席に腰を下ろした。

「はい、準備が出来たようですね。今回皆さんに行って頂く最後の選別ゲームは、生死を分けるサイコロゲームです!」

 織田の言葉を受け、全員の頭の上に疑問符が浮かんだ。
 ゲーム名だけでは内容まで見えてこない。
 沈黙による微妙な空気を感じ取ったのかすぐに織田が続けた。

「2つ目の選別ゲーム『宝箱を探せ』の際に皆さんは赤色か青色のサイコロを獲得しているはずです」

 ようやく思い出した。
 私はポケットに手を突っ込み、赤色のサイコロを取り出した。

 そういえば、織田が宝箱の鍵を開けた際に「1人1つ無くさずにお持ちください。いずれ使うことになりますので」と言っていたような気がするが、最後の最後で使うことになるとは。
 色々あり過ぎて今の今まですっかり忘れていた。

 確か金色の宝箱を見つけたペアは赤色のサイコロを、銀色の宝箱を見つけたペアは青色のサイコロを獲得していたはずだ。
 小町は青色のサイコロを手のひらに乗せている。

 わざわざ色を分けているということは、ゲームの展開を左右する仕掛けがあるのだろうか。
 そんなことを考えていると、清水がゲームのルールが書かれた紙を渡してきた。

【選別ゲームファイナル:生死を分けるサイコロ。このゲームは、選別ゲーム2で獲得したサイコロを使って行う。赤色のサイコロを持っている者は2回、青色のサイコロを持っている者は1回、それぞれサイコロを振れ。出た目が小さい者を脱落とする。同じ数だった場合は決着がつくまで繰り返せ】

「赤色のサイコロを持っている方は、2回サイコロを振って頂き出た目の和を。青色のサイコロを持っている方は、1度だけサイコロを振って下さい。ルールはそれだけです」

 織田がルールの補足を行った。
 最後の最後で運任せのゲームになるとは予想していなかった。

 小町が1回しかサイコロを振れない分、私の方がやや有利か。
 しかし、2回振れるからといって2回とも1が出る可能性だってゼロじゃない。
 完璧に運任せだ。

「配置につけ!」

 織田の命令を受けて武装した政府の人間が私と小町の横に1人ずつ立った。
 それぞれ拳銃を私と小町の頭に向けたまま静止する。

「先攻の方から順番にサイコロを振って下さい」

 織田の低い声を合図にとうとう最終ゲームが始まった。