「同じ学校だったんだ」K小の校区の一部から、iが入学してきてもおかしくないことを、oは覚えておくべきだった。
「ねー、クラス違くて残念」彼女は中学で再会すると思っていたのだろうか、言葉とは裏腹にその顔ははにかんでいた。
「iちゃんにまた会えて嬉しい」「私も」「弓道部入ったんだ?」「o君こそ、これからよろしくね」「よろしくお願いします」何故か急に敬語になったoだが、ようやく再会の実感が湧く。
出身小を聞かれるところから始まり、いつの間にか名前で呼び合っている。一見、会話が成立していないやり取りにも、懐かしさが込み上げてくる。
「じゃあそろそろ戻らないと」「またね」部活の最中であることを忘れていた。
至福の休憩時間であった。
iが女子のもとへ、oもワンテンポ遅れて男子のもとへ合流する。ひとまず濃い三年間になりそうだ。
二人きりでこそこそ話していたいような、堂々と皆でわいわいがやがやしていたいような。
一生一緒にいてくれやとも思った。
仮入部期間終了。一年生が正式に弓道部員となり、このタイミングで新入部員紹介の運びとなる。aは残念ながら、筋トレに耐えられず仮入部期間中に脱落。
「部活探しの旅に出るぜ」そう言い残して、去っている。「風の噂で美術部に入ったらしいぜ」と、本人が言っていた。女子も数名脱落。
そんなわけで、生き残った新入部員を紹介していこう。
S小出身組の男子は元々o、a、bの友人トリオであったが、aの脱落で、bとの元野球少年団コンビに。
女子はまず、六年間同じクラスだったc。流石に中学ではクラスが分かれたものの、部活が同じとなると、長い付き合いになるのだろうか。
次にd、今年同じクラスになったが、小学校でもクラスメイトだったことがある。
そしてeは同じクラスになったことはないが、こちらはbと今年同じクラス。aさえいればS小出身組だけで三対三の合コン状態だったのに、残念だったなa。
それからC小出身組。男子は三人で、仲良くなるにはもう少し掛かりそうだ。女子は二人。
最後に、K小出身はiのみだ。iがすでにcと打ち解けていたので、それとなくcに聞いたら、クラスメイトとのこと。
そんなわけで男子五人女子六人の計十一人。またしてもaがいればと思うのは、iとの再会で、oがすっかり恋愛脳になっている裏返しだろうか。
清く正しい部活動を心掛けなければならない。隙あらばiともっと仲良くなりたい。あの思い出は互いに秘密にしておこうとするきらいがある。
こっそり付き合えないかな、なんて中学入学から数ヶ月も経たないうちに、高望みをしているo。勝手に両思いだと思っているのも、どうかしている。
「iです、よろしくお願いします」ちょうどiが自己紹介を終えていた。
すでにiと顔見知りであるという優越感に浸りつつ、今更ながらiに恋をしていることを自覚するo。
自己紹介は女子からだったので、男子の番はこれから。oも無難に自己紹介を済ませた。
正式にC中弓道部の一員となったoたちだが、筋トレ期間はまだまだ続く。それでも、ゴム弓という練習道具を購入したことで、少し弓道っぽい所作も学び始めるようになる。
ゴム弓が板に付いてくると、部の弓を借りて、素引きという練習も始まる。体験入部のときの弓の体験は、これに近い。
但し素引きでは、絶対に弓の弦を離してはならない。離してしまうと、矢を射らない代わりに、腕や顔に弦が当たるのだ。
体験入部で先輩が付きっ切りだったのは、その暴発を防ぐためである。
弓の体験をしていたあの子がiだとはなあ、そんな余計なことを考えて素引きをしたoは、つい弦を離してしまう。
顔面直撃こそ免れたものの、弦が鞭のように腕を打つ。指導をしていた二年生の先輩や、bに「大丈夫かよ」と無事を確認される。bの兄こと、b先輩からは「誰しもが通る道だから」と、励まされた。
男女別メニューながら、同じ敷地に居たiと目が合った。iに恥ずかしいところを見せてしまったな、oは少し苦笑いをした。
iは何故か微笑んでいた。
bら同級生の男子に、痛みの共有をするo。他校出身組とも、少し打ち解けてきた気がする。
学校生活にも馴染んできて、放課後や土曜日の部活、日曜は休みと一週間のサイクルが確立していく。
oにとってはぬるかった中間テストと違い、新しく習った範囲だけが出る期末テストに、中学生活を実感する。部活停止期間には寂しさすら感じた。
そんな中、oはiについて一つ気掛かりなことがあった。それはiが必ず土曜日の部活を休むことである。
iはそのことについて、先輩らには「習い事があるので」と話していた。
iと部活で再び二人きりになったときに、oも直接iに聞いたこともある。
「秘密ー」と本人にははぐらかされてしまったが、その後「土日にダンスを習っている」ことをeがiから聞き出し、部内で共有されている。
ちなみにeは、グループがあれば中心にいるタイプである。
oのクラスメイトであるdはその真逆で、クラスではoと話すことすらない。
cはiのクラスメイトであるため、おそらくiの習い事を一足早く把握していたであろうが、そういうことをべらべら喋らないのがcである。
この頃には男子部員と女子部員も、同性同士は打ち解けてきているが、異性同士はまだ壁がある。
bとeが同じクラスのよしみで橋渡ししてくれれば良いのだが、まだ一年生の男女が喋る雰囲気ではなかった。
異性の同級生より、同性の先輩とのコミュニケーションが最優先だ。
そういえば、aが「美術部が緩くて良かったわ」とかほざいていた。「鉛筆デッサンと格闘してるぜ」と楽しげに語るaを、一度弓道部に誘ったことは無駄ではなかったと、oは勝手に安堵する。
彼は今、画力の筋トレをしているのだろう。
話が完全に脱線した。要するに、iは土日にダンスの習い事をしていて、今後は弓道部でも日曜などに試合がある。習い事の方でも、きっと似たようなものがあるのだろう。
iはその度に、部活と習い事の二択を迫られるということだ。
地区総体は平日の開催で、一年生も応援に駆り出された。そのときはiの姿もあり、女子の先輩や保護者の方々から『Pスエット』の粉末の溶かし方を習っていた。
まだ気が早いが、秋には新人大会を皮切りに、一年生も大会によっては試合に出られる。
さらに弓道には、昇段審査というものがある。oらが初めての審査を迎えるのも秋で、この日程も土日に組まれている。
oがiと一緒に週末を部活動で過ごせる日は、いつ訪れるのだろうか。
あっという間に一学期の終業式。oはようやく校歌の一番を覚えた。夏休みの課題という悩みの種を抱えつつ、部活漬けの夏が始まる。
県総体。全国大会出場を逃し引退するb先輩こと、bの兄の姿を目に焼き付ける。
夏休みは一気に部活が本格化する。弓道具一式のうち、弓の購入は希望者のみとなっている。
oとbらは本格的に取り組むべく、自分の弓を手に入れる。
iは「買いたかったけど、親に駄目って言われた」と話していた。
夏休み、iは平日の部活も時々休むようになっていった。
「ねー、クラス違くて残念」彼女は中学で再会すると思っていたのだろうか、言葉とは裏腹にその顔ははにかんでいた。
「iちゃんにまた会えて嬉しい」「私も」「弓道部入ったんだ?」「o君こそ、これからよろしくね」「よろしくお願いします」何故か急に敬語になったoだが、ようやく再会の実感が湧く。
出身小を聞かれるところから始まり、いつの間にか名前で呼び合っている。一見、会話が成立していないやり取りにも、懐かしさが込み上げてくる。
「じゃあそろそろ戻らないと」「またね」部活の最中であることを忘れていた。
至福の休憩時間であった。
iが女子のもとへ、oもワンテンポ遅れて男子のもとへ合流する。ひとまず濃い三年間になりそうだ。
二人きりでこそこそ話していたいような、堂々と皆でわいわいがやがやしていたいような。
一生一緒にいてくれやとも思った。
仮入部期間終了。一年生が正式に弓道部員となり、このタイミングで新入部員紹介の運びとなる。aは残念ながら、筋トレに耐えられず仮入部期間中に脱落。
「部活探しの旅に出るぜ」そう言い残して、去っている。「風の噂で美術部に入ったらしいぜ」と、本人が言っていた。女子も数名脱落。
そんなわけで、生き残った新入部員を紹介していこう。
S小出身組の男子は元々o、a、bの友人トリオであったが、aの脱落で、bとの元野球少年団コンビに。
女子はまず、六年間同じクラスだったc。流石に中学ではクラスが分かれたものの、部活が同じとなると、長い付き合いになるのだろうか。
次にd、今年同じクラスになったが、小学校でもクラスメイトだったことがある。
そしてeは同じクラスになったことはないが、こちらはbと今年同じクラス。aさえいればS小出身組だけで三対三の合コン状態だったのに、残念だったなa。
それからC小出身組。男子は三人で、仲良くなるにはもう少し掛かりそうだ。女子は二人。
最後に、K小出身はiのみだ。iがすでにcと打ち解けていたので、それとなくcに聞いたら、クラスメイトとのこと。
そんなわけで男子五人女子六人の計十一人。またしてもaがいればと思うのは、iとの再会で、oがすっかり恋愛脳になっている裏返しだろうか。
清く正しい部活動を心掛けなければならない。隙あらばiともっと仲良くなりたい。あの思い出は互いに秘密にしておこうとするきらいがある。
こっそり付き合えないかな、なんて中学入学から数ヶ月も経たないうちに、高望みをしているo。勝手に両思いだと思っているのも、どうかしている。
「iです、よろしくお願いします」ちょうどiが自己紹介を終えていた。
すでにiと顔見知りであるという優越感に浸りつつ、今更ながらiに恋をしていることを自覚するo。
自己紹介は女子からだったので、男子の番はこれから。oも無難に自己紹介を済ませた。
正式にC中弓道部の一員となったoたちだが、筋トレ期間はまだまだ続く。それでも、ゴム弓という練習道具を購入したことで、少し弓道っぽい所作も学び始めるようになる。
ゴム弓が板に付いてくると、部の弓を借りて、素引きという練習も始まる。体験入部のときの弓の体験は、これに近い。
但し素引きでは、絶対に弓の弦を離してはならない。離してしまうと、矢を射らない代わりに、腕や顔に弦が当たるのだ。
体験入部で先輩が付きっ切りだったのは、その暴発を防ぐためである。
弓の体験をしていたあの子がiだとはなあ、そんな余計なことを考えて素引きをしたoは、つい弦を離してしまう。
顔面直撃こそ免れたものの、弦が鞭のように腕を打つ。指導をしていた二年生の先輩や、bに「大丈夫かよ」と無事を確認される。bの兄こと、b先輩からは「誰しもが通る道だから」と、励まされた。
男女別メニューながら、同じ敷地に居たiと目が合った。iに恥ずかしいところを見せてしまったな、oは少し苦笑いをした。
iは何故か微笑んでいた。
bら同級生の男子に、痛みの共有をするo。他校出身組とも、少し打ち解けてきた気がする。
学校生活にも馴染んできて、放課後や土曜日の部活、日曜は休みと一週間のサイクルが確立していく。
oにとってはぬるかった中間テストと違い、新しく習った範囲だけが出る期末テストに、中学生活を実感する。部活停止期間には寂しさすら感じた。
そんな中、oはiについて一つ気掛かりなことがあった。それはiが必ず土曜日の部活を休むことである。
iはそのことについて、先輩らには「習い事があるので」と話していた。
iと部活で再び二人きりになったときに、oも直接iに聞いたこともある。
「秘密ー」と本人にははぐらかされてしまったが、その後「土日にダンスを習っている」ことをeがiから聞き出し、部内で共有されている。
ちなみにeは、グループがあれば中心にいるタイプである。
oのクラスメイトであるdはその真逆で、クラスではoと話すことすらない。
cはiのクラスメイトであるため、おそらくiの習い事を一足早く把握していたであろうが、そういうことをべらべら喋らないのがcである。
この頃には男子部員と女子部員も、同性同士は打ち解けてきているが、異性同士はまだ壁がある。
bとeが同じクラスのよしみで橋渡ししてくれれば良いのだが、まだ一年生の男女が喋る雰囲気ではなかった。
異性の同級生より、同性の先輩とのコミュニケーションが最優先だ。
そういえば、aが「美術部が緩くて良かったわ」とかほざいていた。「鉛筆デッサンと格闘してるぜ」と楽しげに語るaを、一度弓道部に誘ったことは無駄ではなかったと、oは勝手に安堵する。
彼は今、画力の筋トレをしているのだろう。
話が完全に脱線した。要するに、iは土日にダンスの習い事をしていて、今後は弓道部でも日曜などに試合がある。習い事の方でも、きっと似たようなものがあるのだろう。
iはその度に、部活と習い事の二択を迫られるということだ。
地区総体は平日の開催で、一年生も応援に駆り出された。そのときはiの姿もあり、女子の先輩や保護者の方々から『Pスエット』の粉末の溶かし方を習っていた。
まだ気が早いが、秋には新人大会を皮切りに、一年生も大会によっては試合に出られる。
さらに弓道には、昇段審査というものがある。oらが初めての審査を迎えるのも秋で、この日程も土日に組まれている。
oがiと一緒に週末を部活動で過ごせる日は、いつ訪れるのだろうか。
あっという間に一学期の終業式。oはようやく校歌の一番を覚えた。夏休みの課題という悩みの種を抱えつつ、部活漬けの夏が始まる。
県総体。全国大会出場を逃し引退するb先輩こと、bの兄の姿を目に焼き付ける。
夏休みは一気に部活が本格化する。弓道具一式のうち、弓の購入は希望者のみとなっている。
oとbらは本格的に取り組むべく、自分の弓を手に入れる。
iは「買いたかったけど、親に駄目って言われた」と話していた。
夏休み、iは平日の部活も時々休むようになっていった。
