三学期のS小学校六年二組。oは友人らと、中学校でどの部活動に入るかについて喋っていた。
「お前らは野球部じゃないのか」そう口にしたのはa、彼とは一言で言えば腐れ縁だ。
「野球続けようと思ったけど上には上があるし、いっそ別のスポーツでも始めるかって話してて」そう返したのはb、彼とは五年生で初めて同じクラスになったが、五年近く同じ軟式野球少年団で汗を流してきた仲だ。
「そうなんよ、bはともかく俺は全然上手くないし。野球は応援に回りますわ」この場を回しているつもりでいるのはo。
小学二年生から始めた野球は下手の横好きで、初めて六年生でレギュラーになるもライパチならぬライキュー、九番ライトo背番号9。無死または一死一塁のときは、必ずバントのサインが出されていた。「ゼロ番打者」と揶揄した奴のことは絶対に許さない。
「何のスポーツ始めるん?」「弓道という武道があってね」aの問いに対しbが弓道について語り始める。実はbの兄が中学で弓道部に所属しているのだ。
bの兄は少年団のOBで、oとbに何かしらのスポーツを始める切っ掛けを与えてくれる、頼もしい先輩だ。
「弓道ねー、俺にも出来るかな」「帰宅部とか勿体無いっしょ」「帰宅部とか決めつけんなし」誘わなかったら帰宅部か文化部一直線であろうaに対し、oは「少なくとも《運動部では一番文化部寄り》だと思う、あと卓球部」と、bを経由してbの兄づてに聞いた情報をaに共有する。
「アニメーターは弓道経験者が多いしなー」aの言説は根拠に乏しいが、S誠監督作品の『秒速5CM』を、aに布教されて見て感動したoは妙に納得する。
「俺が知ってる一番古い弓道描写は『CCさくら』かなー、アニメの弓道描写ってどの作品もガチなんよね」流石《ニチアサ》『Pシリーズ』にハマり小学生にしてアニメオタク街道まっしぐらのaだ、聞いていないことまで語り出す。
ちなみにoとaの間には《aはoに映画以外のアニメを薦めない》という不文律が生まれている。内心『週刊少年J』原作のアニメぐらいは薦めてこいよ、そういうとこやぞとoは思っているが、aのアニメ視聴報告をoが聞き流す、そんな関係である。
aが弓道に興味を示してくれたところで、小学校卒業のカウントダウンが進む。
音楽室や空き教室など、もう二度と入らないであろうS小の校舎を目に焼き付ける。卒業式を迎え、人生のページをまた一つめくり中学入学のカウントアップも開始。
新年度になる。入学式を迎えるまでは、小学生でも中学生でもないのだろうか。あっという間に入学式に臨む。
oたちが入学するC中学校の校区は、C小の全域、S小の大部分、K小の一部で構成される。近くの小学校の規模は分からないが、半分以上の新しい出会いがあるということだろう。
特に部活動。この時点で特定の部へ入部を決めた新入生がどれほど居るかは分からないが、友人と一緒に入部予定の部があるoやbにとっては、大人になってからも続く出会いがあるのかもしれない。
aも弓道部に入部してくれるであろうが、oよりも運動神経が無いaの弓道適性は、蓋を開けてみるまで分からない。
bよりも運動神経が無いoですら、下手の横好きで続けた少年団の延長で運動部へ、といった具合である。
「最初はしばらく筋トレ」とbの兄からbが聞いた情報をoもaも共有はしているが、oは《春休みは生活リズムを崩さないよう気を付ける》と意気込みながらも若干崩れ、体力作りをする暇など無かった。aもそうに違いない。
舞う桜が情緒を漂わせる。貼り出されたクラス名簿を確認する。自分の名前と知っている名前と、知らない人の名前も一応確認して、校舎へ踏み入る。
クラスでは知っている顔よりも、知らない顔の方がやはり多かった。自己紹介は穏便に済ませよう、この校歌はいつまでに覚えられるだろう、緊張を紛らわせようと思考を張り巡らせ、するりと入学式を終える。
早いもので二週間。oのクラスでのスクールカーストが中の下で固まったところで、ついに部活動の体験入部の日がやってきた。
クラスが違ったaやbとはたまに廊下で喋る仲だ。この日も「じゃー弓道部冷かしに行こうぜ」とリーダーぶるaのノリに、oとbも続く。
C中学校には弓道場がある。過去には全国大会に出場したこともある、C中弓道部の活動拠点だ。
弓道場では未来の新入部員を先輩たちが待ち構えていた。bの兄へ挨拶に行く。
しばらくb兄弟を中心とした談笑が続く。「上下関係は昔は厳しかったけど、今は程々だよ」と話すbの兄、いやb先輩。
「体験入部だし弓でも引く?」と聞かれるも「あ、どうせ入部するんで」と答えてから敬語になっているかどうか考えるoと、兄弟から先輩と後輩へ再び関係が変わるbは断り、aが体験することに。
射場へと目をやる。oたちが話し込んでいる間に体験入部に来た女子が、同性の先輩の助けを借り、先に弓の体験をしていた。「姿勢が良いね」と先輩たちに褒められていた、その子の後ろ姿が何となく気になる。
体験を終えた彼女がこちらを振り向き、目が合う。
その微笑みに、oは何かを射抜かれた気がした。
ついに仮入部期間が始まった。体験入部のあの子の姿を確認し、ほっとするo。aとbに女子のS小出身組、ほかの小学校出身の同級生らも差し置いて、彼女のことが気になる。
これから腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットの「筋力トレーニング四点セット」の日々が始まる。
少し離れたところで筋トレをする女子に目を向けないよう自制しつつ、数日が経つ。
ある日の筋トレ終わり、『ござ』という畳のような敷物をロッカーに片付ける際に、ほかの同級生らが休憩に向かう中、ふと彼女と二人きりになる。
いくら気になる女子とはいえ、会話の引き出しが無いoは、つい余所見をする。このままaやbらのもとへ合流しよう、そう考えた矢先のことだった。
「どこ小学校?」と彼女に聞かれ、oは咄嗟に「S小学校」と返す。「私はK小」──oが振り向いた先の彼女の輪郭が、かつて何度も夢に出てきては薄れていく、あの公園の少女と重なる。
iとの五年ぶりの再会であった。
「お前らは野球部じゃないのか」そう口にしたのはa、彼とは一言で言えば腐れ縁だ。
「野球続けようと思ったけど上には上があるし、いっそ別のスポーツでも始めるかって話してて」そう返したのはb、彼とは五年生で初めて同じクラスになったが、五年近く同じ軟式野球少年団で汗を流してきた仲だ。
「そうなんよ、bはともかく俺は全然上手くないし。野球は応援に回りますわ」この場を回しているつもりでいるのはo。
小学二年生から始めた野球は下手の横好きで、初めて六年生でレギュラーになるもライパチならぬライキュー、九番ライトo背番号9。無死または一死一塁のときは、必ずバントのサインが出されていた。「ゼロ番打者」と揶揄した奴のことは絶対に許さない。
「何のスポーツ始めるん?」「弓道という武道があってね」aの問いに対しbが弓道について語り始める。実はbの兄が中学で弓道部に所属しているのだ。
bの兄は少年団のOBで、oとbに何かしらのスポーツを始める切っ掛けを与えてくれる、頼もしい先輩だ。
「弓道ねー、俺にも出来るかな」「帰宅部とか勿体無いっしょ」「帰宅部とか決めつけんなし」誘わなかったら帰宅部か文化部一直線であろうaに対し、oは「少なくとも《運動部では一番文化部寄り》だと思う、あと卓球部」と、bを経由してbの兄づてに聞いた情報をaに共有する。
「アニメーターは弓道経験者が多いしなー」aの言説は根拠に乏しいが、S誠監督作品の『秒速5CM』を、aに布教されて見て感動したoは妙に納得する。
「俺が知ってる一番古い弓道描写は『CCさくら』かなー、アニメの弓道描写ってどの作品もガチなんよね」流石《ニチアサ》『Pシリーズ』にハマり小学生にしてアニメオタク街道まっしぐらのaだ、聞いていないことまで語り出す。
ちなみにoとaの間には《aはoに映画以外のアニメを薦めない》という不文律が生まれている。内心『週刊少年J』原作のアニメぐらいは薦めてこいよ、そういうとこやぞとoは思っているが、aのアニメ視聴報告をoが聞き流す、そんな関係である。
aが弓道に興味を示してくれたところで、小学校卒業のカウントダウンが進む。
音楽室や空き教室など、もう二度と入らないであろうS小の校舎を目に焼き付ける。卒業式を迎え、人生のページをまた一つめくり中学入学のカウントアップも開始。
新年度になる。入学式を迎えるまでは、小学生でも中学生でもないのだろうか。あっという間に入学式に臨む。
oたちが入学するC中学校の校区は、C小の全域、S小の大部分、K小の一部で構成される。近くの小学校の規模は分からないが、半分以上の新しい出会いがあるということだろう。
特に部活動。この時点で特定の部へ入部を決めた新入生がどれほど居るかは分からないが、友人と一緒に入部予定の部があるoやbにとっては、大人になってからも続く出会いがあるのかもしれない。
aも弓道部に入部してくれるであろうが、oよりも運動神経が無いaの弓道適性は、蓋を開けてみるまで分からない。
bよりも運動神経が無いoですら、下手の横好きで続けた少年団の延長で運動部へ、といった具合である。
「最初はしばらく筋トレ」とbの兄からbが聞いた情報をoもaも共有はしているが、oは《春休みは生活リズムを崩さないよう気を付ける》と意気込みながらも若干崩れ、体力作りをする暇など無かった。aもそうに違いない。
舞う桜が情緒を漂わせる。貼り出されたクラス名簿を確認する。自分の名前と知っている名前と、知らない人の名前も一応確認して、校舎へ踏み入る。
クラスでは知っている顔よりも、知らない顔の方がやはり多かった。自己紹介は穏便に済ませよう、この校歌はいつまでに覚えられるだろう、緊張を紛らわせようと思考を張り巡らせ、するりと入学式を終える。
早いもので二週間。oのクラスでのスクールカーストが中の下で固まったところで、ついに部活動の体験入部の日がやってきた。
クラスが違ったaやbとはたまに廊下で喋る仲だ。この日も「じゃー弓道部冷かしに行こうぜ」とリーダーぶるaのノリに、oとbも続く。
C中学校には弓道場がある。過去には全国大会に出場したこともある、C中弓道部の活動拠点だ。
弓道場では未来の新入部員を先輩たちが待ち構えていた。bの兄へ挨拶に行く。
しばらくb兄弟を中心とした談笑が続く。「上下関係は昔は厳しかったけど、今は程々だよ」と話すbの兄、いやb先輩。
「体験入部だし弓でも引く?」と聞かれるも「あ、どうせ入部するんで」と答えてから敬語になっているかどうか考えるoと、兄弟から先輩と後輩へ再び関係が変わるbは断り、aが体験することに。
射場へと目をやる。oたちが話し込んでいる間に体験入部に来た女子が、同性の先輩の助けを借り、先に弓の体験をしていた。「姿勢が良いね」と先輩たちに褒められていた、その子の後ろ姿が何となく気になる。
体験を終えた彼女がこちらを振り向き、目が合う。
その微笑みに、oは何かを射抜かれた気がした。
ついに仮入部期間が始まった。体験入部のあの子の姿を確認し、ほっとするo。aとbに女子のS小出身組、ほかの小学校出身の同級生らも差し置いて、彼女のことが気になる。
これから腕立て伏せ、腹筋、背筋、スクワットの「筋力トレーニング四点セット」の日々が始まる。
少し離れたところで筋トレをする女子に目を向けないよう自制しつつ、数日が経つ。
ある日の筋トレ終わり、『ござ』という畳のような敷物をロッカーに片付ける際に、ほかの同級生らが休憩に向かう中、ふと彼女と二人きりになる。
いくら気になる女子とはいえ、会話の引き出しが無いoは、つい余所見をする。このままaやbらのもとへ合流しよう、そう考えた矢先のことだった。
「どこ小学校?」と彼女に聞かれ、oは咄嗟に「S小学校」と返す。「私はK小」──oが振り向いた先の彼女の輪郭が、かつて何度も夢に出てきては薄れていく、あの公園の少女と重なる。
iとの五年ぶりの再会であった。
