「また私のプロデューサーになってくれる?」

 二回目にして『アイドルごっこ』はマンネリを迎える。
 iに可愛いのシャワーを浴びせるだけでは限界だった。歌わずに踊るiに、歌ってみてよと言う訳にもいかず、ダンスの良し悪しも、oには分からない。
「そこまで!」と、ここまでは威勢よく振る舞うoであったが、ここからどう着地するべきか。

「K哲哉やT♂みたいに出来たらいいんだけど⋯⋯」つい本音を言ってしまうo。
「大丈夫、o君なら出来るよ」iから根拠不明の励ましを貰うも、自信など湧かない。
「そういえば、お歌の練習はしてるの?」歌ってよ、と言わずに済む聞き方が出来た。
「学校でやってるー。あとうちだと近所迷惑になるから、ダンスだけやってるんだ」成る程、今までの可愛い連呼は、近所迷惑だったのかもしれない。

「⋯⋯」oはついに掛ける言葉を無くす。「o君」「⋯⋯」「とりあえず、ブランコ乗ろ?」ついに《アイドルごっこ》が幕を閉じる。
 一緒にブランコに乗る。

「o君は真面目だよね」「そんなことないよ、校区の外で遊んじゃ駄目なのに」そうだ、学校では真面目さが売りだったのに、oは最早不良である。
「そっか、o君不真面目なんだ」「あはは」「うける」不真面目はいけないと思う。
「真面目な不良にでもなろうかな」「ふふっ」真面目と不良が両立出来るかはさておき、不良はいけないと思う。

「⋯⋯」またしても会話が止み、ブランコが軋む音だけがする。
「私は真面目で不良なo君が好きだよ?」先週のoならば、どう返したのだろうか。ブランコで空まで飛び出したい、などと戯れ言を言っていそうだ。

「o君に会えて嬉しかったんだけどなー」もう今は、嬉しくないということだろうか。
「私、皆に覚えて貰えるアイドルになるのが夢なんだ」先週までアイドルを目指していなかったのに、もうiには目標があるのか。
「応援してるね」「うん」このままブランコで空へと逃げたい。
「次は何して遊ぶ?」iばかりが場を繋げている、どうしたものか。
「もう帰ろうかな」「えーやだ」最低だ。

「じゃーさ、o君の校区の公園に行かない?」「どうして?」「o君ばかり不良なのずるい、私も不良になる」お父さん、娘さんをたぶらかせてすみません、先週のoならば言っているだろうか。いや心の声だから関係ないか。
「行こうか」「うん」oは本当に不良になってしまった。

 公園まで歩く。「これでおあいこだね」「そうだね」「なんかどきどきする」「帰りはちゃんと送るから」oはもう帰りの話をしてしまう。
「優しいね」優しかったら、校区外へ連れ出したりはしない。
 公園へ着く。「ブランコあるじゃん」公園のブランコを梯子する、oとi。

 またブランコに乗る。oはプロデューサーについて調べた話をする。流石にとてもプロデューサーにはなれそうにない、といったネガティブな話は避けるようにした。H!プロジェクトの話をすると、「そうそうハロプロ!」iが勢いを取り戻す。

 一通りiのアイドル話を聞く。要約すると「B工房が人気だけどやっぱりM娘。。でもM記念日にはもう少し頑張ってほしい」とのこと。
「o君は何が好き?」iが気を利かせてくれたので、親と一緒にプロ野球中継を見始めた話をする。
「じゃープロ野球選手になるんだ?」そんなものだろうか、とりあえず野球を始めるかどうか考えながら、「どうかなあ」と返す。

 テレビ番組の話題となり、どのバラエティ番組を見ているか、ドラマを親と一緒に何となく見ているが、話の中身がよく分からない、といったことも話す。
 iも「お父さんたちが『大河ドラマ』っていうのを見てるけど、よく分からない」とのこと。
 その時間はプロ野球中継を見ていた、昨日も見た、地元の選手が活躍していた、やっと調子を取り戻して急に流暢になるo。

「o君の将来の夢はプロ野球選手かな?」「そうなのかな?」o自身のことなのに疑問符が付いてしまったが、野球を始めるか親に相談してみるか。

 お互いの好きなものが、将来の夢になりそうだということが分かったところで、oはiを家まで送ることにした。
 一時はどうなることかと思ったが、iと打ち解けられて本当に良かった。

「次はいつ遊べるかな?」「ゴールデンウィークだからなあ」そうなのだ、家族行事が入り込むGW後半が待ち受けている。
 お互いの予定を歩きながら確認するも、二人の予定が合うとすれば、連休最後の日曜日だけ。

「毎週日曜日に会うのはどう?」iの魅力的な提案。しかしoはこれまでの短い人生で、《土曜日は金曜日の延長で、日曜日は月曜日に備える日》といった感覚があり、予定を確約することが出来なかった。

「次の次の土曜日に、友達と遊ぶ約束が出来たら、公園に寄るかも」そんな曖昧な代案を出す。
「友達、ね。別にいいけど」iと会うことを何よりも優先すべきなのだろうか、そもそもiとの関係は友達と呼べるのだろうか。

 iと出会った公園に戻る。他所の親子連れの姿がある。
 もうこの公園は二人きりのものではない、oは悟った。もっともあのときはiの弟が居て、二人きりではなかったのだが。
「うちに寄ってく?」再びiの魅力的な提案。しかしoは断ってしまった。

 玄関先でiの家族に挨拶をし、iとも家の前で別れた。
「じゃーo君またね、ばいばい」oも手を振り返す。
 曲がり角へ。

 帰路に着く。その日の夕食で「野球をやってみようかな」と、oは早速家族に相談する。
 oの通う小学校には軟式野球のスポーツ少年団があった。母の知り合いに、その少年団に入団している子どもの保護者が居るらしく、近いうちに見学に行くことになった。

 oがiの《アイドルになる》という夢の背中を押してしまったように、iに《野球を始める》という決断の背中を押されたo。
 プロ野球選手になる夢までは描き切れないoであったが、将来の夢に全力のiの姿を思い起こし、「頑張ろう」と眠りに就いた。

 次の平日。すっかり特撮番組のことは忘れていたので、あの友達とは相変わらずの距離感のまま、GWの五連休に突入する。
 ただ、新しい出会いの予感があった。母が少年団のことを相談した知り合いの子どもは兄弟で、その兄が入団している。弟は興味があるものの、入団していないという。
 その弟の方が、oの隣のクラスの同級生なのだ。彼の存在は母から以前聞かされていたものの、今までは同じクラスではなく交流が無かった。

「一緒に見学したら」と母が言う。今月中にも、少年団を見学する運びとなりそうだ。
《次の次の土曜日に、友達と遊ぶ約束が出来たら、公園に寄るかも》iとの約束未満を気に掛けながら、GWを終える。

《じゃーo君またね、ばいばい》──ある週末に見た夢の中の少女の輪郭は、ぼやけている。