羽ばたきたい。
空を自由に飛んであの雲の向こう側まで。
けれどわたしには翼がないから、飛べるはずもなく。
だからわたしは代わりに紙飛行機を飛ばす。
紙の翼を持つ飛行機を。
ほんのちょっぴりメッセージを添えて。
受けとった人しか分からないように見えない場所に。
秘密の一文。
秘密の気持ち。
届くか分からないドキドキ。
どんなことを思われるか分からないドキドキ。
静かに気持ちを込めて。
静かに手から飛ばして。
往け。
往け。
往け。
あの雲の向こう側まで。
「あの人」に届けと思いながら。
分かっている。
紙飛行機はすぐに落ちると分かっている。
けれど飛ばさずにはいられない。
わたしの代わりに「あの人」のところに。
わたしの代わりに。
離れてしまった「あの人」に、
唯一届くとしたら紙飛行機。
飛んで、
飛んで、
飛んで、
落ちる紙飛行機しかないのだと。
わたしは思いを込めて落ちる紙飛行機に願いを託す。
だってわたしはもう雲の上。
ずっとずっと空の上。
だって「あの人」がいるのは大地の上。
ずっとずっと下の世界。
紙飛行機よ。
一文添えた紙飛行機よ。
往け。
飛んで。
落ちて届け。
「あの人」のところに。
再び逢える日を望んで、「あの人」のところに。
◇
二十一世紀前半、日本、夏の八月一日。
都会からは離れた地方の一都市、わたしの住む市井始まって以来最大の『祭り』がやって来た。
残念ながら発展からは程遠いこの田舎町一世一代の『祭り』だ。
その内容は――
【人工流星雨】
市内外に住む人々から集めたメッセージを一つ一つ鉄の紙飛行機――鉄飛行機か?――に刻んでロケット『星綴譚』に収納、宇宙に打ち上げて一斉に地球に向けて放出する。
そんな『祭り』。
鉄飛行機はきちんと燃え尽きるよう計算されて作られていて、しかしそれまで輝く軌跡を夜空に描く。
夏の日の今夜とクリスマスイブの夜、計二回予定されている『祭り』だ。
メッセージ――流れ星に託す願いは五万以上集まって、企画した市は打ち上げ直前の現在までは大成功、と言っている。
もちろん、わたしだって参加した。
こんな『祭り』、逃す手はない。
『祭り』好きの日本人の血が騒ぐってもんです。
とは言え特別なメッセージが思い浮かんだわけではないので単純に両親へのお礼と感謝にしておいた。
あ、時間だ。
メッセージ付き鉄飛行機を乗せたロケットが遂に―――――――――打ち上がった。
煙が凄い。
火力も凄い。
音まで凄い。
歓声だって凄い。
ロケットはゆっくりと持ち上がり、飛んで往く。
みんなのメッセージを乗せて。
順調に。
夜八時の空にまばらに漂う雲を切り裂き上へ上へと昇り往く。
その姿、もはや空へと上がる火球にしか見えず。
いや、そんな状態すら超えて光の点に変わって。
そしてとうとう――
星が流れた。
これまでにない大歓声。
十七年ここに住んでいたけれど初めて空気が震えた気がした。
ああ、なんて……。
言葉がうまく出てこないや。
それほどまでに人工の流星雨は綺麗で神秘的で。
流れる星は空の中心から右に左に上に下にと光の線を引き、灯っては消えてを繰り返す。
五万を超える鉄飛行機は見事五万を超える流星となったのだ。
わたしはそれを―――――――――――――――――――
血まみれになって見上げていた。
空を自由に飛んであの雲の向こう側まで。
けれどわたしには翼がないから、飛べるはずもなく。
だからわたしは代わりに紙飛行機を飛ばす。
紙の翼を持つ飛行機を。
ほんのちょっぴりメッセージを添えて。
受けとった人しか分からないように見えない場所に。
秘密の一文。
秘密の気持ち。
届くか分からないドキドキ。
どんなことを思われるか分からないドキドキ。
静かに気持ちを込めて。
静かに手から飛ばして。
往け。
往け。
往け。
あの雲の向こう側まで。
「あの人」に届けと思いながら。
分かっている。
紙飛行機はすぐに落ちると分かっている。
けれど飛ばさずにはいられない。
わたしの代わりに「あの人」のところに。
わたしの代わりに。
離れてしまった「あの人」に、
唯一届くとしたら紙飛行機。
飛んで、
飛んで、
飛んで、
落ちる紙飛行機しかないのだと。
わたしは思いを込めて落ちる紙飛行機に願いを託す。
だってわたしはもう雲の上。
ずっとずっと空の上。
だって「あの人」がいるのは大地の上。
ずっとずっと下の世界。
紙飛行機よ。
一文添えた紙飛行機よ。
往け。
飛んで。
落ちて届け。
「あの人」のところに。
再び逢える日を望んで、「あの人」のところに。
◇
二十一世紀前半、日本、夏の八月一日。
都会からは離れた地方の一都市、わたしの住む市井始まって以来最大の『祭り』がやって来た。
残念ながら発展からは程遠いこの田舎町一世一代の『祭り』だ。
その内容は――
【人工流星雨】
市内外に住む人々から集めたメッセージを一つ一つ鉄の紙飛行機――鉄飛行機か?――に刻んでロケット『星綴譚』に収納、宇宙に打ち上げて一斉に地球に向けて放出する。
そんな『祭り』。
鉄飛行機はきちんと燃え尽きるよう計算されて作られていて、しかしそれまで輝く軌跡を夜空に描く。
夏の日の今夜とクリスマスイブの夜、計二回予定されている『祭り』だ。
メッセージ――流れ星に託す願いは五万以上集まって、企画した市は打ち上げ直前の現在までは大成功、と言っている。
もちろん、わたしだって参加した。
こんな『祭り』、逃す手はない。
『祭り』好きの日本人の血が騒ぐってもんです。
とは言え特別なメッセージが思い浮かんだわけではないので単純に両親へのお礼と感謝にしておいた。
あ、時間だ。
メッセージ付き鉄飛行機を乗せたロケットが遂に―――――――――打ち上がった。
煙が凄い。
火力も凄い。
音まで凄い。
歓声だって凄い。
ロケットはゆっくりと持ち上がり、飛んで往く。
みんなのメッセージを乗せて。
順調に。
夜八時の空にまばらに漂う雲を切り裂き上へ上へと昇り往く。
その姿、もはや空へと上がる火球にしか見えず。
いや、そんな状態すら超えて光の点に変わって。
そしてとうとう――
星が流れた。
これまでにない大歓声。
十七年ここに住んでいたけれど初めて空気が震えた気がした。
ああ、なんて……。
言葉がうまく出てこないや。
それほどまでに人工の流星雨は綺麗で神秘的で。
流れる星は空の中心から右に左に上に下にと光の線を引き、灯っては消えてを繰り返す。
五万を超える鉄飛行機は見事五万を超える流星となったのだ。
わたしはそれを―――――――――――――――――――
血まみれになって見上げていた。

