結局花はあの後一回も学校に来ることはなく二学期を終え、自由登校期間に入った。私は宝塚、花は大学の受験のための準備で忙しかったとはいえ、それなりの頻度で連絡はとっていたが、花は比較的元気そうだった。ストレスの要因から離れることができたのがプラスに働いたのかもしれない。そう考えると、橘に相談したことは間違っていなかったような気がする。
「大学受かった!」
卒業式前日、受験番号のスクショとともに花から連絡が来た。
「おめでとう」
「ありがとう! 先生の母校なんだよー。春から先生の後輩!」
相変わらず橘が好きなところに呆れつつ、適当にスタンプを送ってお茶を濁す。
「遥も大学受かったら教えてね! 応援してる!」
花は私が大学を受けるものだと勘違いしたままだ。受かったら報告するつもりではあるけれど、試験も合格発表も三月の下旬なので当分先だ。
卒業式で泣いている人はそれなりにいたけれど、それは友達との別れが名残惜しくて泣いているのだろう。担任に対する感情がこんなにないクラスは初めてだ。他のクラスは寄せ書きをしたりプレゼントを買ったりしていたけれど、このクラスでは何の計画も立ち上がらなかった。
卒業証書授与の時以外は担任が隣の席に座っていて妙に居心地が悪かった。出席番号の関係でそういう席配置になった自分の運の悪さを呪うしかない。
卒業式後、最後のホームルームで橘が話し出す。相変わらず声は綺麗だし、卒業式で正装していると顔の美しさが際立つ。
「皆さんご卒業おめでとうございます。さて、夢だった職業に就いた人も、進学して夢を追い続ける人も、夢を終わらせる決断をした人もいると思います」
運動部の人たちは、プロからスカウトが来た人もいれば最後の大会で結果が振るわず高校卒業を機に競技をやめる人もいる。しかし、卒業式の日にまた随分と火種になりそうな話題を選んだなと思う。
「ですが皆さん、これだけは覚えていてください。夢が終わっても人生は続きます。私たちは生きていかなくてはいけないのです」
卒業式で夢の終わりの話をするのは本当にどういう神経をしているんだろう。
「特に、人と違う生き方を選んだ皆さんは、この先壁にぶつかることも多いと思います。それが何歳の時でも、どんな形で夢が終わっても、平等に明日は来ます」
相変わらず縁起が悪い話をしている。人を惹きつける話し方をしているくせに、話している内容が最悪だから質が悪い。おかげで一年間、この似非教師から話し方のコツみたいなものは勉強させてもらえたけれど。
「明日をどう生きたらいいかわからなくなった時はここに帰ってきてください。教師にとって生徒はいつまでも生徒です」
そういうセリフは好かれている教師が言うから感動するのであって、信頼関係が構築できていない教師が言っても茶番にしかならない。
最後のホームルームの担任の言葉より、式の時に橘が歌っていた『蛍の光』の美声の方がよっぽど印象に残った。私が夢野杏樹のファンのままだったら大喜びだったのだろう。それどころか、この一年そのものが幸せだったに違いない。残念ながらそうではいられなかったけれど。
「大学受かった!」
卒業式前日、受験番号のスクショとともに花から連絡が来た。
「おめでとう」
「ありがとう! 先生の母校なんだよー。春から先生の後輩!」
相変わらず橘が好きなところに呆れつつ、適当にスタンプを送ってお茶を濁す。
「遥も大学受かったら教えてね! 応援してる!」
花は私が大学を受けるものだと勘違いしたままだ。受かったら報告するつもりではあるけれど、試験も合格発表も三月の下旬なので当分先だ。
卒業式で泣いている人はそれなりにいたけれど、それは友達との別れが名残惜しくて泣いているのだろう。担任に対する感情がこんなにないクラスは初めてだ。他のクラスは寄せ書きをしたりプレゼントを買ったりしていたけれど、このクラスでは何の計画も立ち上がらなかった。
卒業証書授与の時以外は担任が隣の席に座っていて妙に居心地が悪かった。出席番号の関係でそういう席配置になった自分の運の悪さを呪うしかない。
卒業式後、最後のホームルームで橘が話し出す。相変わらず声は綺麗だし、卒業式で正装していると顔の美しさが際立つ。
「皆さんご卒業おめでとうございます。さて、夢だった職業に就いた人も、進学して夢を追い続ける人も、夢を終わらせる決断をした人もいると思います」
運動部の人たちは、プロからスカウトが来た人もいれば最後の大会で結果が振るわず高校卒業を機に競技をやめる人もいる。しかし、卒業式の日にまた随分と火種になりそうな話題を選んだなと思う。
「ですが皆さん、これだけは覚えていてください。夢が終わっても人生は続きます。私たちは生きていかなくてはいけないのです」
卒業式で夢の終わりの話をするのは本当にどういう神経をしているんだろう。
「特に、人と違う生き方を選んだ皆さんは、この先壁にぶつかることも多いと思います。それが何歳の時でも、どんな形で夢が終わっても、平等に明日は来ます」
相変わらず縁起が悪い話をしている。人を惹きつける話し方をしているくせに、話している内容が最悪だから質が悪い。おかげで一年間、この似非教師から話し方のコツみたいなものは勉強させてもらえたけれど。
「明日をどう生きたらいいかわからなくなった時はここに帰ってきてください。教師にとって生徒はいつまでも生徒です」
そういうセリフは好かれている教師が言うから感動するのであって、信頼関係が構築できていない教師が言っても茶番にしかならない。
最後のホームルームの担任の言葉より、式の時に橘が歌っていた『蛍の光』の美声の方がよっぽど印象に残った。私が夢野杏樹のファンのままだったら大喜びだったのだろう。それどころか、この一年そのものが幸せだったに違いない。残念ながらそうではいられなかったけれど。



