「なあ、相良、聞いたか? 四月に新しく来た先生が長距離のコーチになるって」
高校二年生に上がった初日の休み時間、陸上部の五木が興奮した様子で隣のクラスから駆け込んできた。
「コーチ? 顧問じゃなくて?」
「顧問は上村先生のままらしいんだけど、なんか箱根ランナーだったって人が着任するらしくて。その人が長距離のコーチしてくれるらしいんだ」
昼休みに五木が体育教員室に行ったところ、上村先生から紹介されたらしい。陸上部の顧問をしている上村先生は、学生時代は陸上部ではなくサッカー部だった。うちの高校に来た時、サッカー部の顧問が既に埋まっているから陸上部に収まったらしく、正直なところ面倒見がいいと言えない。
特に僕たち長距離パートは殆ど自主練のような状態だったから、コーチが来るというのは歓迎だった。
「箱根ランナーってすごいじゃん。なんて人?」
「佐溝先生、って言ってたかなあ」
名前を聞いてみても思い当たるような選手はいなかった。まあ、僕が箱根を見るようになったのは陸上を始めた三年前くらいからだし、こんな何の変哲もない県立高校に誰もが知っているような有名選手が赴任するというのも想像しにくかった。
「今年の駅伝、俺らが大活躍ってことになるかもしれないぜ?」
「いくらなんでも、そんなすぐには変わらないでしょ」
十月になると都大路――全国高校駅伝の予選となる県の駅伝大会が開かれる。去年の僕らは全体十位。半分よりは上だけど、可もなく不可もなくといったところだと思う。全国に行けるのは一位だけだから、今の僕らには夢のまた夢だ。
上位の高校は、選手を集めたり、選手の方から集まったりする強豪校だから、普通の県立高校の僕らがそこまで上り詰めるのは簡単じゃない。
それでも、去年走った先輩達が襷を繋ぐ瞬間を見ていたら、僕も同じ場で走りたいと思ってしまう夢の舞台だった。
「まあ、全国は無理でも、隠れた実力が開花すれば、関東の強豪校からスカウトされたりさ」
続く五木の言葉には返事の代わりに笑みを返す。
コーチが来たからって、一朝一夕でタイムが見違えるほど伸びることはないだろう。どんなスポーツでもそうだけど、長距離という種目は日頃の積み重ねが基礎になる。
それでも、これまでの自主練状態と比べれば、何かが大きく変わってくれそうな気がした。
高校二年生に上がった初日の休み時間、陸上部の五木が興奮した様子で隣のクラスから駆け込んできた。
「コーチ? 顧問じゃなくて?」
「顧問は上村先生のままらしいんだけど、なんか箱根ランナーだったって人が着任するらしくて。その人が長距離のコーチしてくれるらしいんだ」
昼休みに五木が体育教員室に行ったところ、上村先生から紹介されたらしい。陸上部の顧問をしている上村先生は、学生時代は陸上部ではなくサッカー部だった。うちの高校に来た時、サッカー部の顧問が既に埋まっているから陸上部に収まったらしく、正直なところ面倒見がいいと言えない。
特に僕たち長距離パートは殆ど自主練のような状態だったから、コーチが来るというのは歓迎だった。
「箱根ランナーってすごいじゃん。なんて人?」
「佐溝先生、って言ってたかなあ」
名前を聞いてみても思い当たるような選手はいなかった。まあ、僕が箱根を見るようになったのは陸上を始めた三年前くらいからだし、こんな何の変哲もない県立高校に誰もが知っているような有名選手が赴任するというのも想像しにくかった。
「今年の駅伝、俺らが大活躍ってことになるかもしれないぜ?」
「いくらなんでも、そんなすぐには変わらないでしょ」
十月になると都大路――全国高校駅伝の予選となる県の駅伝大会が開かれる。去年の僕らは全体十位。半分よりは上だけど、可もなく不可もなくといったところだと思う。全国に行けるのは一位だけだから、今の僕らには夢のまた夢だ。
上位の高校は、選手を集めたり、選手の方から集まったりする強豪校だから、普通の県立高校の僕らがそこまで上り詰めるのは簡単じゃない。
それでも、去年走った先輩達が襷を繋ぐ瞬間を見ていたら、僕も同じ場で走りたいと思ってしまう夢の舞台だった。
「まあ、全国は無理でも、隠れた実力が開花すれば、関東の強豪校からスカウトされたりさ」
続く五木の言葉には返事の代わりに笑みを返す。
コーチが来たからって、一朝一夕でタイムが見違えるほど伸びることはないだろう。どんなスポーツでもそうだけど、長距離という種目は日頃の積み重ねが基礎になる。
それでも、これまでの自主練状態と比べれば、何かが大きく変わってくれそうな気がした。



