「喜与?」

「……あの、こんなこと考えるのは良くないって思っているのですが。なんというか……、月読様が取られたみたいで、面白くないというか……私だけが見えていたいというか……」

神様を独り占めしようなんて欲深い気持ちがむくむくと湧き上がってしまう。そんな醜い欲はよくないことだとわかっているのに。

「ごめんなさ――」

くっついている私の頭に、月読様の頭がコテンとぶつかる。

「面白くない」

「え?」

「喜与が斉賀家に大切にされていて安心する一方で、喜与を斉賀家に取られた気がしている」

「月読様……」

「こういうのを、独占欲というのだろうか?」

ふと視線が合う。悩ましげに眉を下げた月読様は私の頭を抱え込むように引き寄せ、深く口づけた。

月読様の胸のあたりをぎゅうっと握る。こんな風に私のことを求めてくれるなんて、嬉しくて胸が張り裂けそう。もっとほしいと、欲張りになってしまう。

離れていく唇が物足りなくて、私は自分から月読様を引き寄せて頬に口づけた。ふわりと鼻をくすぐるのは白檀の香り。大好きな月読様の香り。

「喜与、やはり一緒に住まないか。斉賀家で皆と食事をして思ったよ。温かな家庭を築くことの尊さをな。神だとか人だとか関係なく、私は喜与の良き夫になりたいと思う」

「私も斉賀家のような温かな家庭を築きたいと思っていました。月読様と二人で」

「喜与、私と共に生きてくれぬか」

「はい。私に、月読様の生きる時間を少しください」

「いくらでもお主に捧げよう」

私の一生は、月読様の人生の中でどれだけの時間なのかよくわからない。そもそも神様に寿命があるのかもわからない。そんな月読様の長い人生の一部を私にくれたら、こんな嬉しいことはないだろう。

藍色の空には満天の星とまん丸い月が煌々と輝く。冬の冷たい空気に月読様の温もりが混ざり合い、愛おしさが募ってゆく。

「幸せで死にそうです」

「長生きしてもらわないと困る。寂しいではないか」

「ふふ、わかりました」

二人で眺めた夜空はいつもよりも明るくて、またひとつ、世界が色づいた気がした。


【END】