夜もすっかり更けた頃、満月(みつき)の夜泣きで目を覚ました。いつも通りお乳をあげると、すぐにすやすやと眠る。今夜は天気がいいのか、月明かりが障子を通して青く差し込む。

「喜与」

障子の向こうから私を呼ぶ声がする。
低く透き通った、優しい声。

「月読様」

返事をするとすっと障子が開き、繊細で美しいシルエットが浮かび上がった。

「今夜は満月(まんげつ)だ。少し、夜空を眺めないか?」

「はい、ぜひ」

満月(みつき)がぐっすり眠っていることを確認して、そっと部屋を抜け出した。外に出ると風はないけれど、冬の冷たい空気がピリピリと肌を刺す。

「それでは寒いだろう」

月読様が自分の羽織を脱いで、私の肩に掛けてくれた。そしてそのまま私を抱き上げるとふわっと空へ舞う。

「月読様、羽織がなくて寒くないですか?」

「私は大丈夫だ」

いつも、月読様と空を眺めるときは鳥居の上だ。けれど今日はまだ恵方詣の参拝客が深夜にも関わらずちらほらとやってくるため、月読様は本殿の屋根の上に着地する。ここだと拝殿に隠れるため、参拝客から私の姿が見えることはないだろう。

「結局バチあたりですよね」

「いいのだ、私の住処なのだから」

月読様は空に手を伸ばす。いくつかの星が光を放出しながら、幻想的に夜空を彩った。空にはまん丸の月がぽっかりと浮かぶ。その綺麗な風景にしばし見とれた。夜空なんて毎日同じようなものなのに、月読様と眺める夜空は特別に美しく感じる。

「御節料理、とても美味しかった。あんなにたくさんのものを作るのは大変だったであろう?」

「月読様に喜んでもらいたくて、頑張っちゃいました。それに、斉賀家の皆さんにも。いつもお世話になっているから、そのお礼として」

「それにしても斉賀家は賑やかだな」

「はい、本当に。月読様の存在を感じてもらえて嬉しかったです。でも……」

言いかけて、口をつぐむ。月読様に視線を向けると、「どうした?」と柔らかい眼差しが返ってくる。その温かさに胸がきゅんと苦しくなって、月読様の腕を絡め取るようにぎゅうっと抱きしめた。