「箸が浮いてる……」

「豆が消えた……」

旦那様と奥様が月読様を見てぽかんとする。どうやら月読様の姿は見えないけれど、月読様がお箸を使い黒豆を食べるので、箸が宙に浮いているように見えるみたいだ。

「あ、えっと、月読様が食べてくださってるので……」

「ええ、それはわかっているけど」

「何か不思議な感覚だ。見えないはずなのに見えるみたいだよ」

「ありがたいのう」

「長生きしててよかったわい」

「月読様、なますも美味しいよ。食べてみて」

「これ、永真。言葉遣い!」

「あっ。なますも美味しいので、食べてみてください」

皆が、月読様と呼びかける。それに応えるように、月読様の取り皿にはたくさんの種類の御節料理が盛られていく。

「喜与」

「はい、何でしょう」

「私は今まで食べるということに何も感じていなかったが、なかなか良いものだな。料理を振る舞ってくれてありがとう」

「喜んでもらえたなら、嬉しいです」

「ああ、とても。皆と食事ができて嬉しく思う」

月読様は嬉しそうに、次々と食べてくれる。私が作った料理を月読様が食べている。こんな日が来るなんて思っても見なかった。まるで夢を見ているみたいだ。

「また、作ってもいいですか?」

「また作ってくれるのか?」

「もちろんです! また月読様に喜んでもらいたいです」

「ふふっ、お主は本当に可愛いな」

「えっ!」

とたんにボボッと頬に熱が集まる。突然そんなことを言うものだから、急に心臓がドッドッと音を立て始めてしまう。

「喜与さん、どうしたの? 月読様なにか仰ってる?」

「え? いや、えっと……」

「喜与のことが愛しくてたまらぬよ」

月読様の声が私以外に聞こえないことをいいことに、そんなことを言い出す。ちょっぴり意地悪な顔をしているのは、私をからかっている証拠だ。