居間に戻ると月読様のために上座が空いており、私もその隣に座らされた。私なんかが上座に座るだなんて恐れ多いと慌てるけれど、奥様に手で制される。

「あ、あの、ここは上座なので……」

「いいのいいの。月読様の隣に喜与さんがいないと、私たち月読様を感じられないでしょう」

「月読様いるの?」

「どこどこ?」

「永真、真太、神様に向かって失礼でしょう。きちんとご挨拶しなさい」

叱られた二人はすぐに姿勢を正し、きちんと手をついて頭を下げる。

「神様、あけましておめでとうございます」

兄の永真がご挨拶するのを真似て、真太も「おめでとうございます」と頭を下げる。月読様は二人のそばに行って、そっと頭を撫でた。

「今、月読様があなたたちの頭を撫でてくれていますよ」

伝えると、永真と真太は「わあっ」と顔を見合わせて嬉しそうに笑った。そんな幸せな光景に胸が熱くなる。神様が見えなくても、神様の存在を信じている人がいる。それも、疑うことなく。

ずっと気持ち悪いと疎まれてきたことが嘘みたいな世界が、斉賀家に広がっている。なんて素敵な世界なんだろう。

「それではいただこうかの」

お祖父様とお祖母様が箸をつけてから、永真と真太が「いただきまーす」と我先におかずを取り合う。それを両親に叱られながら、賑やかな夕食が始まった。

「月読様、どれを取りましょうか」

「たくさんあって迷ってしまうな。適当にいただこう」

月読様が箸を持ち、黒豆を一粒ぱくりと口に入れる。もぐもぐと咀嚼するのをじっと見守ってしまった。どうだろうか、甘すぎないだろうか。それとも甘さが足りないだろうか。

「喜与」

「はい」

「美味い。こんなに美味いものは初めて食べた」

「本当ですか? いっぱい食べてください」

褒められたことが嬉しくて、あれもこれも月読様のお皿にのせる。斉賀家の皆さんにもよく「喜与さんは料理上手ね」と褒められるけれど、なんだか今日はそれ以上に嬉しい気持ちでいっぱいになる。

好きな人に食べてもらえるって、こんなに嬉しいことだったんだ。