「御節料理は、昔は神様にお供えするものじゃったな」

「え、そうなのですか?」

「ばばが子供の頃に聞いた話じゃよ」

「それこそ月読様に聞いてみたらいいかもしれんの」

「あ、そろそろ月読様も呼んできますね」

外に出るとすっかりと日が落ち、星がキラキラと瞬いていた。斉賀家は名月神社の敷地内に隠れるように建っているため、木々を少しだけ抜けると神社の境内が広がる。もう夜だというのに、恵方詣に訪れる参拝客がまだちらほらといる。こんなに活気づいている名月神社は初めてだ。

そんな中、月読様は開け放たれた拝殿の間口に座り、ニコニコと参拝客を見守っていた。けれど誰一人、月読様の姿が見える者はいないようだ。

「月読様」

声をかけると、視線をこちらに向け、ふっと微笑んでくれる。そして音もなくすっとこちらに来てくれた。

「そろそろ夕食の時間です」

「もうそんな時刻であったか。すぐに参ろう」

「皆さんが、月読様が来てくれるのを心待ちにしていますよ」

「そうか。それはありがたいことだ。夕食は喜与が作ったのか?」

「はい。お正月らしく御節料理を用意しました。お口に合うといいのですけど」

「御節料理か。懐かしいな」

「あっ! お祖母様が言っていました。昔は御節料理を神様にお供えしたんだって」

「ああ、確かに。そういう時代もあったな。だが食べるのは初めてだ」

「そうなのですか?」

「ああ。だからとても楽しみだよ」

そんな風に言われると、嬉しさと緊張でドキドキと鼓動が速くなってしまう。一生懸命心を込めて作ったけれど、美味しく食べてもらえるだろうか。食べてもらえると嬉しいな。