「ごちゃごちゃうるさい。最後まで話を聞け。月読様は今後一切名月神社から出てはならぬ。夜を見守り続けるようにとのことだ。そして喜与が死ぬまで愛し続けよ。それが罰である」

「それだけか?」

「それだけだ。これで言伝は終わりだ。我は帰る」

「ああ。遠くからわざわざすまなかった。大国主によろしく伝えてくれ」

「承知した」

カラスは月読様の腕から離れると、羽を羽ばたかせて暗い夜の中へ消えていった。しん、と静寂が訪れる。

「……月読様、名月神社から出られないって」

「そうだな。責務を全うせよとのことだろう。今までだって名月神社を出たことはない。この件を除いてな。だから何も変わらぬよ」

「……私が死ぬまで愛し続けろって」

「言われずともそのつもりだ。これは罰というのか? 大国主も粋な計らいをするものだ」

「ふ、ふええっ」

「なぜ泣く?」

「だって……だって……。よかったと思って。もっと何か酷いことがあるんじゃないかって……。よかった……」

月読様の長くしなやかな指が私の頬をなぞる。溢れた涙を掬うように、優しく撫でた。月読様に触れてもらえるだけで、不安だった心が少しずつ落ち着いていく。

「だが、ここから出られないから、喜与をどこかに連れて行ってやることも、ついていくこともできぬ。重い罰だ」

「そんなのいいのです。私は、ここで月読様と星を眺めたり花を愛でたりしたい。それが何よりも幸せなのです」

大好きで愛おしくてたまらない月読様がそばにいる幸せ。これ以上何を望むことがあるのだろうか。

私の荒んだ世界に色をくれたのは月読様。喜び笑い合うことの尊さを教えてくれたのも月読様。この偉大な神様に、私はどれだけ助けられたのだろう。

「必ず恩返しします」

「何もいらぬ。喜与がそばにいてくれるだけでいい。冷えてしまったな、そろそろ戻ろう」

ふっと微笑む月読様は私を優しく抱えてふわりと鳥居から飛び降りる。

人と神様は寿命が違う。あと何回、こうして月読様と夜空を眺められるだろうか。だからこそ、一日一日を大切にしていかなければならないのだろう。

「ずっと幸せでいられますように」

「ああ。喜与を幸せにすると、この夜空に誓おう」

月読様の手が私の頬を包む。
その温かな手に、自分の手を添える。

満天の星空を目に焼き付けながら交わした口づけは、とても甘くて優しいものだった。