その日の夜、満月の泣き声に目を覚ますと、月読様が子守歌を歌いながらゆらゆら揺れていた。夢現のまま、ぼんやりとその光景を見る。幸せな気持ちで満たされながら月読様の子守歌を聴いているうちに、私もいつの間にか寝てしまうという、なんとも贅沢な夜を過ごしていた。そしてまたふと、目を覚ます。

「月読様、すっかり子守歌覚えましたね」

「そうであろう。満月が可愛くて堪らぬよ」

そう微笑む月読様は以前にも増して柔らかい表情をする。とても嬉しいことなのに、ちょっぴり寂しい気持ちになるのは何故なんだろう。

「私が見ているから、喜与はよく寝なさい」

「はい、でも……」

もう少し月読様とお話したいな、なんて思ったりもして。でも、月読様は夜を見守るお仕事がある。それなのに時々満月を見に来てくれるだけでもありがたいと思っているのに、我儘を言うわけにはいかない。睡眠不足は敵だと奥様にもきつく言われているし……。

「よく寝ておる」

月読様は抱いていた満月をそうっと布団に寝かせた。すっと立ち上がるところ、思わず月読様の袖を掴んだ。気づいた月読様と視線が交わる。

「あ……いえ、なんでもな――」

「少し、星でも眺めるか?」

「いっ、いいのですか?」

「冷えるかもしれぬが」

「冷えてもいいです!」

前のめりな私を見て、月読様はくすりと笑う。満月を抱くのと同じくらい優しい手つきで私を抱えると、すっと音もなく斉賀家を出る。そして名月神社の鳥居の上まで蝶が舞うように飛んだ。

冷たい冬の風がピリピリと肌を刺す。
吐く息が白い。

「やはり冷えるな。大丈夫か?」

「はい、月読様に触れているのであったかいです」

冬の澄んだ夜空に星が無数に瞬く。月読様が空に手を伸ばし円を描くようにくるりと回すと、さらさらと星が流れた。