「満月に睫毛が生えてきたのです。そうしたら、ほら、目元が月読様に似ていませんか?」

「そうであろうか? だが口元は喜与に似ているな。とても可愛らしい」

ふっと微笑む月読様は、私の唇を指でなぞる。とたんに心臓がドキドキと壊れそうな音を立てた。先ほどの奥様の言葉を思い出してしまう。

『毎晩会いに来るなんて、よっぽど喜与さんのことが好きなのね』

ああ、なぜ今思い出してしまうのだろう。余計意識してしまうではないか。月読様はとても綺麗で美しくて、そして柔らかい雰囲気の優しい神様。大好きでとても愛おしい。ずっと見ていたい。

「どうした?」

「えっ? ああ、えっと、つ、月読様の好きな食べ物は何ですか?」

じっと見ていたことを悟られまいと慌ててごまかす。
月読様は「ふむ」と顎に手を当てた。

「そうだな、あまりあれこれ食べたことがないから、よくわからぬ」

「え……。じゃあ、普段のお食事はどうしているんですか?」

「普段は特に食べておらぬ」

「えっ! お食事されないのですか?」

「まあ、食べなくもないが、毎日供物をしてくれるからな、そういう人の心で腹が満たされるのだ」

「そう、なんですか……」

これでは月読様の好きな食べ物で感謝の気持ちを伝える作戦が、使えなくなってしまった。また別の作戦を立てなければ……。

「何か食べたほうがよかったか? 食べることもできるぞ」

「あ、はい。よかったらお食事でもと思ったのですが……」

「喜与が作るのか?」

「はい」

「だったら食べてみたい」

「え?」

「喜与の料理を食べたい」

またドキッと胸が高鳴る。月読様はいつも私が欲しい言葉をくれる。私が月読様にお礼をしたいのに、月読様はそれ以上のものをくれる。

「一生懸命作りますので!」

「そうか、では楽しみにしている」

ふっと微笑んで優しく頭を撫でてくれる。こんなに幸せなことってあるのだろうか。

満月がまたふええと泣いた。たぶんこの泣き方は寝ぐずりだ。

「どれ、私が抱っこしようか。喜与はそろそろ食事の時間であろう。満月は私に任せておくがよい」

「はい、ありがとうございます。満月も嬉しそう」

満月を抱っこしてゆらゆら揺れる月読様の顔はとても慈愛に満ちていて、胸が熱くなる。

「月読様、父様(ととさま)なのですよね」

「そうだ。ずいぶんと様になっているだろう?」

「はい。とっても!」

頷くと、月読様も満足そうに微笑んだ。
その姿に、また私は胸がきゅんと疼いたのだった。