「奥様、あの……、実は私も神様を感じることができるのです」

「ああ、やっぱり。そうじゃないかと思っていたの。喜与さんよく何もないところを見ているから」

「あの……それで……その……、夜が来ないのは私のせいなのです。月読様が私を助けるために力を使ってしまって、今はお眠りになっています。本当に申し訳ありません」

名月神社の御祭神なのに、私のせいで夜が来なくなってしまった。そのために世は混乱し、旦那様もお祈りする日々が続いているという。

――神は人に干渉してはならぬ

以前、月読様が言った言葉。きっとこういうことだったのだ。私はそれを理解しないで、月読様にわがままを言ってしまった。月読様はお優しいから願いを聞いてくださったけれど、本当は迷惑だったかもしれない。

床に手をついて深々と頭を垂れた。けれどその手に奥様の手が優しく重ねられる。

「喜与さん、どうして謝るの?」

「だって……」

「謝ることなんて何もないでしょう? むしろ誇るべきよ。神様は本当にいるんだ、私たちを助けてくださるんだ、それがこの名月神社の神様なんだって。私はとても誇らしいことだと思うわ」

「誇らしい……?」

「そうよ。あなたは神様に助けられた。感謝することはあっても、謝ることはない。謝ったら神様に失礼でしょう」

「でも……」

「気に病んでいるのなら、謝るんじゃなくて、喜与さんは神様に対して何ができるのか考えなさい。生かしてもらった命で恩返しをするのよ」

「……恩返し」

一体私に何ができるというのだろう。月読様は何をしたら喜んでくれるだろうか。考えるけれど何も思いつかない。

それでも、奥様の言葉は私の心を少しばかり軽くしてくれた。助けてもらったことに対して申し訳ないと思うのではなくて、きちんと感謝することが大切なのだと教えてくれる。それは月読様だけではなくて、斉賀家の皆様にも、私は感謝しなくてはいけない。それを再認識できた。

「それにしても、私以外にも神様を感じられる人がいたのね。嬉しいわ」

奥様がにっこり笑う。私も胸がいっぱいになった。幼い頃から気持ち悪いと言われ続けてきた私にとって、それらを払拭してしまうほどの感覚。こんな気持ちは初めてだ。