その間、月読様が目を覚ますことはなく、私もどうすることもできなくて、ただ様子をうかがうばかり。せめて温かい布団の中で寝てほしいと、うさぎと一緒に布団の中へ引きずり込むのが精一杯だった。

たったこれだけのことなのに、体力が落ちていることが目に見えて分かる。ぐったりしているところを奥様に発見され無理をしてはいけないと叱られる。そして布団に戻されるを繰り返していた。

けれど奥様は少しずつ赤子のお世話も教えてくれた。お乳のあげ方やおしめの代え方、ぎこちない手つきでも決して怒ったり怒鳴ったりすることはなかった。

「奥様、赤子の名前を決めました」

「何かしら?」

「はい、満月と書いて、みつきです」

満月(みつき)ちゃんね。すっごく素敵な名前。よかったわねぇ、満月ちゃん〜」

奥様は優しく満月の頭を撫でてくれる。奥様にも子供が二人いる。七歳と五歳の男の子だ。

「女の子ってこんなにふにゃふにゃしてるのねぇ。娘が増えたみたいで嬉しいわ」

「男女で違うのですか?」

「男の子はもう少しガッシリしてるの。喜与さんがちゃんと回復したら、紹介するわね」

「ありがとうございます」

とはいうものの、奥から子供の笑い声は聞こえるし、たまに障子の向こうから覗き見ていたりする。今は私と満月の負担にならないように、この部屋に入らぬように言い聞かせているのだとか。

斉賀家には六人が住んでいる。そのうちの一部屋を、ずっと私が使わせてもらっている。伴藤家で与えられていた小さな部屋とは違う、立派な部屋。とてもありがたく、そして申し訳ない。かれこれ何日お世話になっているだろうか。早く出ていかなくてはと思っているのだけど、まだ体の回復が追いつかない……。

「ようやく夜が戻ってきたわね」

「え?」

外を見やれば夕闇が広がっていた。月読様を見るけれど、まだ目を覚ましてはいない。

「日に日に夜が近づいている気がするわ。うちの御祭神もやる気を出してくださったのかしら?」

「御祭神……月読様のことですよね?」

「ええ。夜の神様だと伝えられているのよ。だから麓の村では奇跡か祟かって大騒ぎ。旦那も毎日祈祷で忙しくしてるわ。普段は神様なんて信じないくせに、そういう時だけ神様、神様って。本当、人って都合がいいわよね」

奥様は可笑しそうにクスクスと笑った。