斉賀家の人は、誰も月読様とうさぎの姿は見えなかった。けれど――

「神様が助けてくださったのだろう」

「夜が来なくなったのも、月読様のお力かのう」

そんなことを大真面目な顔で言う。月読様は私の膝の上で眠っているのですよと教えたいけれど、伝えていいものかわからない。

「ボクのことも褒めろ。喜与、この者たちにそう伝えるのだ」

うさぎが煩くまわりをぴょんぴょん飛び跳ねるが、それこそどう伝えていいものかと考えあぐねてしまう。信じてもらえるのかもわからないし。伝えたところで信じてもらえなかったら……? 気持ち悪いと嫌な顔をされるやも……。

「まだ顔色が悪いわ。あなたはもう体を休めなさい。そうだ、お名前は何というの?」

「はい、喜与と申します」

「喜与さんね。この子の名は?」

「名前……。考えておりませんでした」

「そうなの。じゃあゆっくりと考えたらいいわ。この子の世話は私がするから安心して」

奥様は私の腕から赤子を引き取ってくれる。

「あの……。私が名前を付けてもいいのですか?」

「何言ってるの? あなたの子でしょう? あなたが付けないでどうするの?」

感覚が、わからない。伴藤家では私が意見することは許されなかったから。私が決められることなど何一つなかったから。

「喜与さんが決めるのよ。わかった?」

奥様が私の背を優しく擦ってくれた。
また、涙が溢れてどうしようもない。斉賀家の人たちは、月読様みたいに優しくて温かい。ありがたくて胸が苦しい。

「さてさて、わしらももう一度寝るかの」

「うちの御祭神は雲隠れかの」

「夜が恋しいのう」

お祖父様とお祖母様は、夜が来ないことを何でもないように笑いながら部屋を出ていく。私はまた布団に寝かされ、旦那様と奥様が傷の状態を確認してくれた。