「私が幽霊だというのなら、お主はどうするのだ?」

「え? そうですね、残念ながら除霊はできないので、話し相手くらいにしかなれませんが」

「では、話し相手になってもらおう」

そう言うやいなや、私の体は彼によってひょいっと持ち上げられる。

「きゃあっ」

「暴れるな、馬鹿者」

どんどん高くなる視界。彼は私を担いだまま、鳥居の上までふわりと跳んだ。

「バチ当たりです!」

そう叫んだものの、あまりの高さに恐怖で彼にしがみつく。ふわっと甘い香りが鼻をかすめ、少しだけ落ち着きを取り戻した。

「今夜は月も星も綺麗に見える」

彼が見上げる先、夜空にはこぼれんばかりの星が煌めいている。手を伸ばせば届きそう。

「うわぁ、すごい」

「そうであろう」

しばらく私は夜空を見上げていた。こんなに綺麗で吸い込まれそうな夜空がこの世界にあったんだと思うと、胸が苦しくなって涙が溢れそうになる。

「こんな夜更けに何をしに来た? 先ほどは熱心に祈っておったようだが? 女子の独り歩きは危ないぞ」

「男子を身ごもれるように神頼みに来ました」

「子ができぬのか?」

「はい……。神様にお願いしたら、きっと願いを聞いてくださると思って」

「神は万能ではないから、残念ながらお主の願いは聞いてやれぬ」

まるで私の行動を全否定されたような気がして、カッと頭に血が上った。鳥居の上に座るバチ当たり幽霊ごときに神様を悪く言われたくない。

「あなたに何がわかるんですか」

思わず詰め寄る。すると彼は透き通るような長く白い指で、私の頬をするりとなぞる。そして顎をくっと掴んで彼の方を向かされる。視線が交わり、時が止まったような気がした。

「私は幽霊ではない。神だ」

瞬間、星が流れた。
幾重にも重なる煌めきが、夜空を彩る。
こぼれ落ちそうな星々。
息をすることも忘れてしまう。

その神様の名は、月読(ツクヨミ)様といった。