まさか翌日も真夜中に来るとは思わなかった。何かを抱えながら、石段をぴょこぴょこと登ってくる。

「どうした。また神頼みに来たのか?」

鳥居から下りて声をかければ、何の疑問もなく目が合う。やはり今日も私の姿が見えているようだ。

「それもそうですけど、月読様にお願いがあります」

「それこそ、神頼みではないか」

「あ、確かにそうですね。神様ですもんね」

「お主、信じておらぬだろう?」

「そんなことはないですよ」

眉を下げてくすりと笑う。
あどけない笑顔はどこか儚い。と思っていたら、大きな目からぽろりと雫が落ちる。出来ては落ち出来ては落ち、まるで宝石のようにキラキラと輝きながら、涙が溢れていた。思わず頬に手を伸ばす。あまりにも泣くので、袖で頬を拭った。

「汚れてしまいます」

「かまわぬ」

「……申し訳ございません」

「謝ることではなかろう。お主が何か悩みを抱えていることはわかっていたよ。そうでもなければ、こんな夜更けにわざわざ神社に来る奇特な者はいないだろうからな」

「……はい」

「願いは何だったか?」

「はい、神社の片隅でいいので、このキキョウを植えさせていただけませんか?」

「なんだ、そんなことか。好きにしたらいい。ここは(さび)れているからな。花があれば少しは活気づくであろう」

なんと可愛らしい願い事であろう。そんなこと、聞かずとも勝手に植えれば良いものを。

「ここを管理している方はお見えにならないのですか?」

「いや、いるにはいるが、あまり熱心ではなくてな。だが心の優しいやつだよ」

「その方は月読様のことが見えるのですか?」

「見えないな。早々見える者はおらぬ。私を見たものはお主が初めてではないか?」

「えっ、そうなのですか? それは……お寂しいですね」

あまりにも真面目な顔でそう言うものだから、一瞬息を飲んだ。初めての感覚に若干戸惑う。当たり前だった毎日に、亀裂を入れられたようなそんな気分だ。