「あ、あの……」

「お主があまりにも熱心に拝んでいたから、気になった」

「は、はあ……」

害はなさそうだけれど、いったいこの人は何者なんだろうか。先ほど鳥居の上にいた人物と同じ、たおやかに揺れる装束を纏っている。鳥居を振り返ればそこには誰もおらず、さっきの人なのだと理解した。

私は幼い頃から、人には見えないものが見える。その見えないものが幽霊なのか悪霊なのか、詳しいことは何も分からないけれど、まわりからは誰もいない空間で誰かと話をしている気味が悪い子だと、避けられ疎まれてきた。

両親でさえ私を気持ち悪いものと扱い、早く家を出したくて堪らなかったようだ。ちょうどうまい具合に伴藤家との縁談の話がまとまり、厄介払いができたとばかりに早々と家を追い出されで今に至る。

「あの、あなたが何者かわかりませんが、鳥居の上に座るのは罰当たりですよ。神様に失礼ではありませんか?」

「なるほど。それは気付かなかった」

彼はうむ、と腕組みをする。
とても悪びているようには見えない。

「……あなたはここで何をしているのですか? 見たところ人間ではなさそうですが。成仏できない幽霊ですか?」

「お主はおかしなことを言う」

彼は楽しそうにくっと微笑む。
私は何も楽しくない。この奇妙な出来事に自ら首を突っ込んでしまったことに、若干後悔の念がわき起こった。無視をしておけばいいものの、いつもこうやって関わりを持ってしまう。だからまわりから気味悪がられるのだ。私の悪い癖だとは思うけれど、どうにも治らないようだ。