「気になったから辺りをくまなく調べてみたが、誰もいなかった。だが、奥の林に藁人形と五寸釘が落ちていたな」

「ああ、縁起が悪い。そんな呪われた神社に参拝だなんて、どうかしているわ」

「お前、本当に参拝だろうな?」

「……はい」

かろうじて絞り出した声に、旦那様は大きく舌打ちをすると、突き放すように胸ぐらから手を離した。

「今日からお前は外出禁止だ。わかったな」

「喜与さん、あなた自分の立場をわきまえていないようね。そんな呪われた神社に参拝だなんて、まわりに知れたらどうなることか。ああ、恐ろしい」

「跡取りを産むことがお前がここにいられる理由だ。勘違いするな」

目の前から色が消えていく。お義父様もお義母様も旦那様も、私の全てを否定して罵倒する。

私がここにいられる理由はやはり子を産むことだけ。子を産んだら伴藤家に必要とされるかもしれないと思っていたけれど、もしかしたら違うのかもしれない。子を産んだら私は用済みになる。

ぽろりと涙が溢れた。

「あらなあに、泣けば済むとでも思ってるのかしら。みっともない」

「ふん、身の程を知れ」

「はい……申し訳ございません」

泣くつもりなんてなかった。この家に嫁いできて泣いたことなどなかった。疎まれ蔑まされることなんて慣れていたし、泣いたら余計に罵倒されることくらいわかっていたはずなのに。

どうしてだろう。胸が苦しくて、押し潰されそう。
伴藤家にどう思われようが知ったことではない。今となってはどうだっていい。色のない世界に光を差し込んでくれたのは月読様。私をちゃんと人として見てくれたのも月読様。月読様が私に生きる喜びを与えてくれた。

月読様に会いたい。
会いたいのに、もう会えない。

自分で会わないと決めたときとは違う。会えないことがこんなにも悲しいだなんて、私はどれだけ月読様のことを愛してしまったのだろう。

この世の終わりかのように寂しくもどかしい気持ちのまま、月日だけが無情に過ぎていった。