朝食の配膳を終えて部屋を出ようとしたところ、珍しくお義父様から「待たないか」と呼び止められた。普段お義母様の尻に敷かれているお義父様は、伴藤家で存在感が薄い。

「お前、昨夜はどこに行っていた?」

「え……」

「屋敷を抜け出すのを見たぞ」

「喜与さん、どういうこと?」

私を監視していたのはお義父様だったようだ。月読様はつけられていると言っていたので、名月神社に行ったことはわかっているはずだ。

「いえ、あの……じ、神社に行っておりました」

「夜中に神社? 縁起が悪いわ」

「おい、どういうことだ!」

旦那様が声を荒げて畳をバンっと叩く。その剣幕に肩がビクリと揺れた。震えそうになる手をぎゅうっと握る。

「あの……子が無事に生まれてきますようにと、お祈りを……」

「あんな夜中にか?」

「はい……」

背中に冷たい汗が流れる。いくら月読様が見えない存在であろうとも、私が不貞を働いていることには変わりはない。その罪悪感が胸を締めつける。

「お前、逢引をしていないだろうな?」

「なんだと!」

「しておりません」

「父さん、何を見たんですか?」

「喜与さん、あなたまさか!」

「いいえ、いいえ」

私は必死に首を横に振った。
カタカタと手が震える。怖い。罪悪感と恐怖で押し潰されそう。私は、悪いことをしている。わかっている。わかっているけど――!

「誰かと会っているのかと思ったが、誰もいなかった。確かに、参拝しているだけではあったが」

「それならわざわざ夜中に行くことはないだろう。ええ、どうなんだ、喜与!」

旦那様に胸ぐらを掴まれる。恐怖で声が出なくなった。何も話さない私に、旦那様は手を振り上げる。ぶたれる――と思ったけれど、お義父様が「いや待て」と制止した。