温かいぬくもりに安心する香り――

気づけば私は月読様の膝の上で抱えられていた。

「月読様……」

「大丈夫か?」

「月読様――!」

その胸にすがりつく。
月読様は黙って私を抱きしめてくれた。

「……喜与、私に何か用があったか?」

「はい。月読様との子を身ごもりました」

「……そうか。それでお主の願いは成就したのであろう。伴藤家の嫁に戻ったのではなかったか?」

「はい。約束通り、伴藤家の嫁としての務めを果たしております」

「よかったな」

月読様は儚く微笑んで、抱きしめる手を緩めた。それがどこか他人行儀で寂しくて、そして悲しい。

「……月読様は嬉しくないですか? 私と月読様の子が、ここにいるのですよ」

「そうは言っても、お主はそれを伴藤家の子として育てるのだから、そこに私の感情はいらぬだろう。腹の子は伴藤の子だよ」

「そうです。わかっています。それでも、私はあなたの言葉がほしい」

「喜与はわがままな娘だ」

「月読様にしかわがままは言いません」

「一生のお願いは聞いたはずだが」

「……知りません」

「言っていることが無茶苦茶だ」

「そうですよ。私は伴藤家の嫁に戻ることを条件に、一生のお願いを聞いてもらいました。子を身ごもったときは嬉しくて嬉しくて……。悪阻も貧血もひどくて、それでも月読様との子が無事に生まれてくることを願って、耐えてきました。月読様の愛の証がここにあるから、頑張れるって思って。だけど私は……月読様に会いたくて……会いたくて……。そう思ってしまったら、どうしようもなくて。ずっと我慢していた感情が止められない……。もっとぎゅっと抱きしめてください」

顔を涙でぐちゃぐちゃにしながら、私は好き勝手なことを訴えていた。
月読様は迷惑だったかもしれない。面倒くさい女だと思ったかもしれない。それでも、私は自分の感情が抑えきれなかった。