――夢を見た。

鳥居の上に月読様が座っている。
夜空を彩る星は輝きを失い、厚い雲に覆われてどんどん見えなくなっていく。

「月読様」

呼んでもこちらを見てくれない。
やがて月読様の目からぽろりと涙が溢れた。

それを皮切りに、雨が降りだす。
それでも月読様はそこに留まったまま。

「月読様!」

私の声は強まる雨に掻き消され、彼には届かない。
何度も何度も呼んだ。
それでも一度も振り向いてくれなかった。

目が覚めたとき、外は雨が降っていた。ザアザアと激しい音がしている。夢と現実が交錯する。

急に不安に襲われ、心臓がドキドキと音を立て始めた。もしかして私はもう見えざるものを見ることができなくなったのではないか。月読様との縁が切れてしまったのではないかと思ったのだ。

伴藤家の嫁に戻ると言ったのだから、このまま月読様に会わないことが正しい選択。それをわかっているし、そうしてきたのに、急にタガが外れたように恋しくなる。

月読様に会いたい――!

そう考えた瞬間、ぽろぽろと涙が溢れて止まらなくなった。

月読様は今何をしているだろうか。
私のことは忘れてしまっただろうか。
会いに行ったら迷惑だろうか。

ほんのりふっくらとしてきた腹に手を当てると、月読様を感じられる気がした。子は生まれてくるために確実に成長している。

この子が月読様の子だと、無事に生まれてきますようにとお祈りに行くのはどうだろうか。それだったら、迷惑にはならないだろう。

そんな風に自分勝手に解釈をして、私は再び名月神社に足を運ぶことを決めた。会いたいという気持ちがどうしても抑えられなかった。