例の遺体の猫の写真ですわ。

 首にしっかり掻き傷が残ってるでしょう?

 これつまりね、この猫が他殺体じゃないってことなんです。

 ハハハ!びっくりしてらっしゃる!さっきと言っていることが逆ですもんな。だが考えてみてください。吉川線っていうのは人間の遺体に関する話で、猫の遺体に関する話じゃないんですから。

 例えば人間の絞殺をするなら……想像してみてください。必死に首を絞める。ありったけの力で首を絞めて、何とか殺す。そうですな。重労働です。じゃあ猫のことを考えてみてください。……思いっきり力を込めたら首なんてコッキリ言っちゃいそうでしょう?つまりこんな首の周りに引っかき傷や暴れた傷なんてできない。そもそもこの目を見てください。充血してるでしょ?これは鬱血による死の特徴です。

 ゆっくり締めたら……そうですな。確かにそれなら人間と同じように時間を掛けて殺せますな。じゃあこれも想像してみるといい。時間を掛けて、優しい力でじわりじわりと猫の首を絞めていく……当然猫は暴れるでしょうな。あんた、それをうまく抑えられます?猫を抱いたことがあればわかると思いますが、動物っていうのは小動物でも案外力が強い。確かにこういうひっかき傷はできるかもしれませんが、それより人間の方が傷だらけですわ。まともにやったら。事件の後、猫の掻き傷かなんかで病院に行った人も聞きませんでしたしなぁ。

 こういう傷ができる条件を考えてみる。運悪く、猫が輪っか状になった紐か何かに首を絡ませ、暴れる……。人間であれば高いところから体を落とせば頸椎が自重で折れますが、猫は首の筋肉量に対して体重が足りんでしょう。血管は十分に締まるでしょうけどね。猫は抜け出そうと藻掻くが、ついには力尽きる……こういう条件ならこういう傷が残りますな。

 もちろん猫の首に輪っかを掛けて吊るせば同じこともできますが、猫は現場で捕まえた物みたいですからね。人馴れしていることを考慮に入れても、何匹もそんなことをしていたらどんだけ時間がかかるかって話ですよね。もちろん猫がうっかり何匹も首をひっかけたというのは考えづらいですな。

 少なくとも、人間が殺した物じゃないんですよ。多分。こんなこと、上には絶対に言わないですけどね。じゃあ誰が殺したんだって話になっちゃうでしょ?