某怪談収集ホームページより引用 「公園の女」

忘年会の三次会を断った後、酔いを覚ますために公園の入り口で休んでいたんです。
侵入禁止のアーチ状のポールに腰掛ける形で道路に背を向けて、自販機で買った水を飲んでました。
公園内にはベンチがあったんですけど、なんとなく座りたくなかったんです。泥とか夜露とかで汚れてるときがあるじゃないですか。
僕が来てすぐに、枝葉を掻き分けるような音がしました。目を向けると女性が二人、さっきのベンチに向かっているところでした。一人はこの季節にしては薄着で、足取りがかなり怪しくて、もう一人が支える形で腰を下ろしていました。
あの人たちも忘年会だったのかなあとぼんやり思いました。

しばらくして、複数人の賑やかな話し声が聞こえてきて、自分がいる方向とは別の入り口から、男が三人入ってきました。
そのとき気がついたんですが、ベンチに二人いたはずの女性が一人になっていました。
残っていたのは薄着の女性でした。居眠りをしているのか酔いがひどいのか、頭を下げた状態でゆっくり不規則に揺れていましたが、男たちに声をかけられて頭を上げました。
一言二言話しかけられて、女性がゆっくり頷いた後、男たちが急に沸いたと思ったら、一人が女性の隣に座って、胸元に手を突っ込み始めたんです。
うわあ最悪だ、と思いました。間に割って入るべきだという思考は頭にありましたが、相手体格のよい三人組、対してこちらは学生時代に運動部経験もなかった中年オフィスワーカーです。情けない話ですが、身体がすくんで動けませんでした。

すると突然、
「うわあああああ!」
と、女性を触っていた男が声を上げたんです。私もびっくりしましたがそれは残りの二人も同様のようで、なんなんだよいきなり! というようなことを怒鳴っていました。
座っていた男はそれには一切答えずに、「きめぇんだよ!」と吐き捨てて公園を出て行きました。他の二人はそれを追いかけていったので、残されたのは私と問題の女性だけです。
あっけにとられたまま女性の方を見ると、身体を左右に揺らし、血色の感じられない白い顔で無表情に私がいるほうへ歩いてきていました。

街灯の白い明かりに照らされて、ボタンが外れたブラウスの間から、明らかに肌や血の色とは違う赤紫色が見えました。
河原に落ちている石に、原色の絵の具を塗りたくったような無数の凹凸が、彼女の歩みに合わせて柔らかく揺れていました。

ほんの数秒だったと思います。あまりに現実感がなく、私は動けないままでした。

女はゆっくりと口を開けました。空気の漏れるような音だけが聞こえて、
歯の無い口腔を埋め尽くすように、ボコボコと隆起した赤紫色の肉が脈動しているのが分かりました。
 
夢中で走っていたらしく、気がつくと、コンビニの入ったところで息を切らしていました。鞄と潰れた空のペットボトルを、指がこわばって開かなくなるほどに強く握りしめていたのを覚えています。

あの公園がある町には、あれ以来一切近寄っていません。