○○大学オカルト研究会部内誌 二一号 掲載インタビュー

 大学で美術研究会に入っていました。
 キャンパスごとにアトリエがあって、私がよく利用していたアトリエは建物の地下にあるものでした。冬寒く夏暑い、お世辞にも過ごしやすいとは言い難い場所でしたけど、空きコマはだいたいここで過ごしていました。
 夏は湿気が溜まって、クーラーもあまり利かないのでもう最悪でした。でも、アトリエを避けてワンルームの自室で油絵を描くと部屋中が絵の具の匂いになって、それはそれですごく嫌なんですよね。
 私はモチーフを置いて絵を描くということがほとんどなくて、資料はスマホに保存した写真を使っていたので。基本、壁に向かってイーゼルを立てて、入り口に背を向けて座っていました。他に人がいなくても、なんとなく定位置に座っちゃうんですよね。
 鍵を開けたままの入り口から美研の他のメンバーが入ってきたら物音でわかりますが、大所帯のサークルなので知らない人が入ってきても気にしていませんでした。別のキャンパスの講義を受けに行くついでにアトリエも使おう、と思うのは自然なことなので。

 その日はアトリエに、入り口近くの机に大きめのチョコレートの箱が置かれていたんです。スーパーで買えるタイプの物じゃなくて、例えばバレンタインの時期にデパートの催事で売ってるような、高そうな箱に入っているものでした。見たことないお店のでしたけど、先に来ていた仲いい部員の子が「この名前見たことある」と言っていて。実際にそのお店のお菓子を食べたことはなかったらしいんですけどね。
 で、誰かの差し入れだろうってことで、その場にいたメンバーでありがたく頂いたんですけど・・・・・・違和感はあったんです。
 包装紙はかかってなくて、蓋をパカッと開けたらそのまま中が見えるんですけど、ああいうお菓子って大抵、緩衝材みたいな、薄いボール紙的なものと一緒に、チョコの説明が書かれた紙が入ってるじゃないですか。複数の種類があるならなおさら。私、アレをじっくり読んでからチョコを選ぶタイプなんですけど、見当たらなくって。蓋の裏、箱の下にもです。誰かが食べるときに邪魔に思って捨てたのかな、とも思ったんですけど。ハートやリーフを模ったシンプルな造形のチョコは凹み一つ一つにちゃんと入っていて、全部揃っているようにしか見えませんでした。
 そんなことを気にしていたのは私くらいで、みんな気にせずに食べてました。半分くらいのメンバーは「なんか・・・・・・微妙?」って顔してて。それ見て食べるのやめとこうかな、とも思ったんですけど、なんか・・・・・・せっかく差し入れてもらったんだし、有名店のっぽいし、って気持ちが勝って、一つだけ食べました。イチゴ味のソースが入ってたんですけど、なんか不思議な・・・・・・苦みって言うか、雑味に近い風味? があって、変わった味だなあと思いましたけど、珍しいものならそんなこともあるのかな、と思いました。
 たしか形が三種類くらいあったんですけど全種食べたって子もいて。その子が言うには全部中にソースが入ってるタイプだったそうです。
 その日は遅い時間の講義もなかったので早めに帰ったんですけど、家に着いてから咳が出てきて、病院で診察を受けたら多分風邪だろうって言われました。もらった薬飲んで休んだらわりとすぐ治ったんですけど、後で訊いたら、その日アトリエにいたメンバー全員に似たような症状が出たそうです。

 それで、最近あのチョコレートのお店を見つけたんですけど、びっくりしました。箱は同じなのに入ってる内容があの日見たものと全然違ったんです。上部にいろんな花の絵がプリントされている綺麗なチョコで、小さいやつを買って食べてみたんですけど味もこっちの方が全然おいしくて。
 このことはまだ部員の誰にも言えていません。でも絶対言った方がいいですよね。あのときのチョコの包みは当然もうないから証拠もないし、あのときのメンバーも今はみんな元気だから、大学に共有しても注意喚起で終わりそうですけど。
 あ、でもそういえば、一番たくさん食べてた子は体調を崩してからずっと調子が悪くて、今はほとんど大学に来なくなっちゃったらしいんですよね。新入生で、このままだといきなり留年だから連絡を取りたいのにメッセしても返事がないって、その子と仲いい部員が困ってました。
 あのチョコレート、いったいなんだったんでしょうね?