冬虫夏草。かつては特定の種──漢方薬として有名なシネンシストウチュウカソウを指す言葉でしたが、今では昆虫に寄生するキノコ全体を示すようになっています。
 特殊なキノコであるという印象があるかもしれませんが、木に生えるキノコも枯れかけた木のセルロースを分解・吸収し、土に返しています。何に生えるか異なるだけで、分解者という点では同じなのです。
 そして実は、寄生キノコは昆虫に生えるものばかりではありません。地中に埋まっているトリュフ状のキノコに寄生して成長するキノコや、珍しいところでは植物の種子から、我こそが新芽であるとでも言いたげな表情で──キノコに顔はありませんが──悠々と子実体(彼らの生殖器官、要するにキノコ)を伸ばす種も発見されています。
 まだ人間に見つかっていないというだけで、この世界には他にもたくさんの珍しいキノコが存在していることでしょう。未同定のキノコを見るたび、わくわくします。

菱平眞子『不思議な菌・キノコたち』より引用