「見て見て隼人くん!雪だるま!」
「うお、すげえな」
 12月下旬のある日、花怜がせっせと作り上げた雪だるまを見ながらそう言った。気づけば季節は移ろいあっという間に冬が来た。隼人はあのまま部活を辞め、花怜との時間を大切にしていた。
「そうだ、見せたい場所があるの。着いてきてくれる?」
 花怜がそのような提案をするのは珍しいことだった。隼人は快く承諾する。
「いいよ、どこ行くの?」
「まだ教えないよー」
 花怜が早々と歩き出すので隼人も着いていく。思ったよりも距離があるようで、かれこれ三十分は歩いている。街の外れで、木が生い茂るような場所に来ていた。
「着いた!こっちこっち」
 促されるまま草を掻き分けて進むといきなり視界が開けた。そこには驚くべき光景が広がっていた。眼前には日光を反射する湖が広がっていて、雪を纏った白い木々とのコントラストに隼人は息を呑んだ。
「知らなかった…こんなすごい所があったのか」
「隼人くんが学校行ってる間は私暇だからさ。私も隼人くんを驚かせたくて、付近をずっと散策してたんだよ」
 そう言いながら花怜は写真を撮っている。確かに学校に行っている間花怜が何をしているのかずっと気になっていた。まさかここを見つけていたなんて。「私も隼人くんを驚かせたくて」。この一言が隼人の胸を熱くさせた。
「ありがとな花怜。マジ感動したわ」
 感謝を伝えて花怜の方を振り返ったと同時に、隼人は違和感を覚えた。花怜が今までにない虚ろな表情をしていたのだ。
「ッ!?どうした!?」
 虚ろな表情に気付いたのと花怜がその場に倒れ込んだのは同時だった。隼人は慌てて駆け寄る。
「おい花怜、しっかりしろ!」
 まだ呼吸はあった。すぐに救急車を呼ぼうとスマホを手に取る。
「待って…はや…とくん」
 弱々しい声が聞こえてきた。意識もあるようだ。
「いや、急がないと!」
「違うの…私はこの世の者じゃないから、病院には行けない」
「は!?」
 そう言って花怜はゆっくり起き上がる。
「もう体調は回復した気がする。この通り起き上がれるし」
「本当に大丈夫なのか?一瞬で治ることってあるか?」
「もうすぐ私がこの世に来て一年経つから。そろそろタイムリミットなんだよきっと。この世ならざる者への警告みたいなものだったんじゃないかな」
 花怜は物憂げな表情で淡々と言葉を紡ぐ。すぐ近くにいて、存在を確かに感じるのにこの世の者ではない。それがなんだか悔しくて。
「…隼人くん?」
 気づけば隼人は花怜を抱きしめていた。
「この世ならざる者なんて言わないでくれよ。君は…俺にとって何よりも温かい存在なんだ…!」
 消えて欲しくない。ただその一心で。
「…俺、花怜のことが大好きなんだ。俺、これからも側にいていい?」
 ああそうか。自分は花怜のことがこんなにも大好きだったんだ。いつも元気に話してくれる姿も、真っ直ぐに夢を追う姿も、毎日見せてくれる色んな表情も、全部が愛おしかったんだ。
「私も」
「隼人くんのこと、好き」
 二人はお互いの存在を確かめ合うように、抱き合ったまま動かなかった。


 花怜が倒れたあの日から、隼人は悔いを残さないよう過ごすと誓った。クリスマス、初詣、バレンタイン…冬のあらゆるイベントを二人で楽しんだ。
 そして時は過ぎ、三月三十日。二人が出会ってから、まもなく一年が経とうとしていた。