日は沈みかけて星が少しずつ姿を現し始めた頃。隼人と花怜はいつもの木の下で向かい合っていた。
「…それで、私に話したいことって?」
 昨日あんな別れ方をしたにも関わらず花怜はいつもの木の下にいた。
 昨日金原村の話を出してからずっと花怜には焦燥感のようなものが憑いていた。意を決して隼人は話し始める。
「この新聞を見て欲しいんだ」
 例の新聞を取り出す。
「え、7年前?随分昔だね」
「おばあちゃん家でたまたま見つけてね。それで…単刀直入に聞きたいんだけど」
 こんなこと聞いたら頭おかしい奴だと思われるかもしれない。でも、隼人は目の前にいる少女のことが知りたい。例の記事を見せながらその一心で言葉を紡いだ。
「花怜ってさ…もう死んでる…のか?」
 時間の流れが何倍も何倍も遅く感じられた。2人の間にどれだけの沈黙が過ぎただろう。
「話してもいいかな。私のこと」
 先に口を開いたのは花怜だった。
 こうして、隼人は真実を目の当たりにした。花怜は新聞の通り、7年前まで金原村に住んでいたが洪水に飲まれ、夢半ばのまま亡くなったこと。死後の世界で、「一年間だけ生き返れる」と言われて気づいたら本当に生き返っていたこと。生きる感触に感動して泣いていたら隼人が声を掛けてきたこと。全て聞いた。
 古新聞を見つけた時からある程度の覚悟は決まっていたが、こうして目の当たりにするとかける言葉が見つからない。
「じゃあ、花怜はあと半年も生きられないのか?」
「…私の言うこと、信じるの?」
 信じるしかなかったし、信じたかった。いつの日か「私、来年にはもういないんだと思う」と言っていたことも、出会った当初自身の事情を濁していたことも全て説明がついてしまうから。
「ああ、信じる」
「君が消えるその日まで、君の夢を手伝いたい」
 辛い現実から目を背けない覚悟を持って、確かな言葉でそう伝えた。
 花怜は無言で涙を流した。隼人もつられて泣いてしまった。
「たとえいつか消えるとしても…俺はそばにいるからッ!」
 満点の星空の下、2人はずっと泣いた。