公園のいつもの木も薄黄色の葉をつけるようになってきたようだ。そんなことを思いながら歩いていると、
「隼人君!」
 花怜はいつものように佇んでいた。
 隼人の頭の中には祖母の家で見つけた衝撃の事実がずっと蔓延っていた。本当にこの人は死んでいるのか?目の前にいるのは幽霊のようなものなのか?何一つ理解できないまま、隼人は探りを入れることにした。
「やっほー花怜、そう言えば聞きたいことがあるんだけど」
「んーなになに?」
「花怜ってさ…」
 ここまで言ったからにはもう止められない。唾を飲み込み、続きを口に出す。
「金原村から引っ越してきた…みたいな感じだったりする?」
 金原村の名前を出すのは勇気のいることだった。いきなりの質問に怪しまれる可能性もあった。
「どうして金原村を…?」
 花怜は目を見開いて絞り出すような声でそう訊ねた。いつものような冗談混じりの声ではなく、心の底から理由を尋ねているような声で。
「いや、その…俺のおばあちゃんがそこ住んでてさ、花怜のこと話したら、『似たような子がいたかもしれない』って言ってて…」
 我ながら苦しい嘘だった。でもこれで真実に近づけるならそれに越したことはない。
「…金原村、知ってる人いるんだー、驚いちゃった。えっと金原村には何回か行ったことあるけど、引っ越す前に住んでたのはもっと遠い所なんだよねー」
 花怜は上擦った声でそう話す。どうやら花怜は今真実を話す気はないらしい。ならばあまり追及するのも良くない気がした。今日は引き下がることにした。
「そうなのか。ごめんな、突然こんな話をして」
「いや?全然…大丈夫だよ」
 結局その日真実を知ることはなかった。
「…あの、今日は写真撮るの無しで良い?」
 花怜が弱々しい声でそう尋ねる。
「えっ」
「それじゃあ、またね」
 それだけ言い残し、花怜は公園を出て行ってしまった。
「…怒らせてしまった…のか?」
 秋の肌寒さを感じながら隼人は立ち尽くしていた。

 しばらく経ってから家に帰ると母がいた。
「ねえ隼人、こんな古新聞持ってきちゃってどうするのよー」
 昨日祖母の家から持って帰ってきた古新聞を指さしてそう言った。確かに、いきなり7年前の新聞を持って帰ってきたら変だろう。
「ああごめん母さん、その…明日使いたいんだ、あの新聞」
「あらそうなの?どういう意図かは分からないけど、あんまり放置し過ぎないようにね」
「うん分かった」
 軽く会話をして部屋に戻る。
 今までの自分なら、花怜と向き合うことから逃げていただろう。だが、大切な人と逃げずに向き合いたい。その一心だった。
「花怜…君は一体何者なんだ?」
 例の古新聞に視線を落としながらそう独り言つ。隼人はもう既に、花怜に真実を聞く決意を固めていた。