「隼人、新人賞取ったんだって?」
 久々に帰省したところ、母親からそう言われた。
「うん、三回目の応募で念願の受賞だよ」
「良かったわ!写真を撮るようになってから、隼人はなんだか生き生きしてるもの。やりたいことが見つかって良かったわね」
「ありがとう母さん」
 隼人は写真家を志すようになり、専門的な知識を学び続けて大学三年生の現在、芸術雑誌の写真部門で新人賞を受賞した。親としっかり向き合って話し合った結果、アスリートへの道は選ばないことにした。
「じゃあ隼人のお祝いも兼ねて、今からどこか外食しない?」
「ごめん、今日は一人で行きたいとこがあるんだ」
「あら、そうなの?」
 そう言って家を出る。向かうのは、懐かしのあの場所だ。
「あの木も変わってないな」
 そこは二人が出会った公園だった。いつもの木は桜が散って、少しずつ若い緑の葉をつけている。
「やったよ花怜。俺、夢叶ったよ」
 もし本当にやりたいことを見つけて、それが叶った時には真っ先にここに来ようと思っていた。何かの間違いでいつもの木の下に花怜がいるんじゃないかなんて淡い妄想をすることもあるが、そんな奇跡は起きるはずもない。公園の下には隼人一人である。でもそれで悲しくなったりはしない。
 隼人はポケットから写真を取り出す。それは、花怜が最期に遺したあの写真たちだった。
 “大好きな隼人君 前へ進め”
 花怜からの最期の願い。これに応えるべく夢を探して、そうして行き着いた先が花怜と同じ写真を撮ることだった。花怜の夢と俺の夢がここで交わることになるなんてな。忙しない日々の中で、花怜を思い出すことは少なくなってしまった。だが、これこそが花怜の望んだ世界なのだろう。
 この思い出深い木を撮ろうと思い、カメラを準備する。
「出会ってくれて、ありがとう」
 今は亡き大切な想い人にそう語りかけながら、隼人はシャッターを切った。