花怜がいなくなってからどれほどの時間が過ぎたのだろう。隼人はずっと家に篭って花怜との思い出を回想していた。そうでもしないと隼人は自分を保てなかった。
「花怜は…こんなこと望んでないよな」
 なんとか自分を奮い立たせ、久々に外に出る。隼人の心とは裏腹に空は曇りのない快晴だった。もう日は傾き始めているが、隼人にはどうしても行きたい場所があった。
「はぁ…やっぱり綺麗だな」
 そこは夕日が煌めく白丘橋だった。隼人と花怜が初めて夢の話をした場所である。
「ここで夢の話をしてから…俺たちの日々は始まったんだよな」
 あの日々を思い出し涙が出てきた。今日だけは花怜との思い出に浸って泣き続けよう。そして明日から、花怜のことを過去にして新しい日々を始めよう。隼人はそう誓いを立てた。
「あら隼人、こんなところにいたの…てかどうしたの!?」
 突然声をかけられて振り向くと、隼人の母が立っていた。ああ、咽び泣いてるところを見られてしまった…
「まあ気にしないでよ。わざわざここまで来たってことは何か用事?」
「そうなのよ。さっき家のポストを開けたらなんか写真がいっぱい入ってたのよ。私も父さんも身に覚えがないから、もしかして隼人宛てじゃないかって」
 写真…?
「…分かった。帰って確認してみる!」
 そう言って隼人は足早に家へ向かった。隼人に写真を送る人物、それは一人しか考えられなかった。
 花怜、なのか?
 家に着くや否やポストを漁る。母の言っていた通り数枚の写真があった。
 馴染み深い公園の桜の写真、深緑色の木の下で隼人が転んでる写真、冬の街外れの湖の写真…計6枚の写真全てに見覚えがあった。どうして今送られてきたのかは分からない。花怜が死後の世界で奇跡を起こしてくれたのか。
「…懐かしい、なぁ」
 その写真たちを見て感傷に浸っていると、違和感を覚えた。
「裏になんかある?」
 桜の写真の裏に手書きの文字で「だいす」と書かれているのに気がついた。
「だいす…?」
 気になって他の写真見てみると「はやと」「きな」「へすすめ」「くん」「まえ」と言う文字が出てきた。隼人は無性に胸騒ぎがした。
「これは…」
 写真を時系列順に並べると文章が浮かんできた。
 だいす きな はやと くん まえ へすすめ
 大好きな隼人君、前へ進め。意味を認識するより前に、隼人の目から涙が溢れた。
「うぁぁ…花怜、俺、進めるのかな?君がいなくても、前を向けるのかな?」
 いいや、進むしかないんだ。
「…そんなの、進むしかないじゃんか。君の分まで、前へと!」
 淡い春色の空に向かって、隼人は精一杯の声で叫んだ。