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「花怜ってさ、金原村から引っ越してきた…みたいな感じだったりする?」
「どうして金原村を…?」
 素性がバレないよう、彼と会う時は細心の注意を払っていたつもりだった。だけど、なんで私の出身地の金原村の話が出てきているの?
「いや、その…俺のおばあちゃんがそこ住んでてさ、花怜のこと話したら、『似たような子がいたかもしれない』って言ってて…」
 そんな偶然があるというのか。
「…金原村、知ってる人いるんだー、驚いちゃった。えっと金原村には何回か行ったことあるけど、引っ越す前に住んでたのはもっと遠い所なんだよねー」
 流石にそろそろ嘘をついているのがバレそうな気がして、怖かった。素性を知られて、拒絶されるのが怖かった。
「そうなのか。ごめんな、突然こんな話をして」
 明らかに怪しいのに、彼は聞き入ろうとしなかった。きっと、どこまでも優しさに溢れている人なんだ。
「…あの、今日は写真撮るの無しで良い?」
 それなのに、私は結論を出すことから逃げた。彼の優しさを無下にして、その場から逃げた。