◎タイトル 廃村マニア
◎本文
僕は廃村マニアで、暇さえあれば友人のサエキと日本全国にある廃村を訪れていました。
10年ほど前のことです。G県の山間にあるK村という廃村が、訪れた人には必ず禍が降りかかる呪われた廃村であることをネットで知りました。
僕もサエキも呪いなんか全く信じません。早速、次の休日にK村を訪ねました。
K村についての情報を得ようと、麓の町にある役場の職員のミシマさんに話を聞くと、「あそこは人消しの村と言われているんだ。行かない方がいい」と言われました。
でも僕らはそれを聞いて逆にワクワクしました。“ホンモノ”の呪われた村に行けるかもしれなかったから。
山道を3時間ほど歩いて、周囲を山で囲まれているK村に着きました。
情報によると、K村は戦後、数年で廃村になったとのこと。廃村になって80年近く経っているため、家屋のほとんどは原形を留めておらず、家のあった所には朽ち果てた材木の山があるのみでした。
その材木の山の中にキラリと光るものがいくつか見えたのです。近づいて見てみると、それらは金属製品で、鍋、包丁、洗面器などでした。
村を棄てる時に、このような生活必需品を残しておいたことに、僕は違和感を覚えました。
ふと、足元を見ると、錆びだらけの出刃包丁がありました。そばには薄汚れた砥石が転がっていました。僕は無性にこの出刃包丁を研ぎたくなって、近くの沢に行って、無心になって包丁を研ぎました……。
K村での僕の記憶はここまでです。
次の記憶は山を下りた僕が役場のミシマさんと話しているところからです。
ミシマさんは山の方を見ながら、「第二次大戦中にね、金属が足りなくなって、『金属回収令』が出たんだけど、K村の村民たちは、生活必需品を持って行かれると困るから、呪術師に頼んで、それらを持って行かれないように、呪いのようなものをかけたんだよ。おかげで鍋や包丁とかの金属の生活必需品は無事だったんだけど、その代償なのか、人がどんどん消えてね。結局、K村は廃村になったんだよ」と話していました。
そして、ミシマさんは怪訝そうな顔をして、僕に訊きました
「ところでお連れの方はどうしたの? 先に帰ったの?」
サエキのことです。でも思い出せない。K村まで一緒だったことは確か。その後のことがどうしても思い出せないのです。
村に戻れば何か分かるかもしれないと思いましたが、怖くなって止めました。
K村の噂は本当かもしれません。
(2019年、東京都内の居酒屋で採話)
(了)

