「それで、ロッピャクとフタさんがこれを見て…ロッピャクが消えて、フタさんもまた体調が悪くなって今はふたりともいないと」
「そんな感じ。シップ、動画見ちゃった?」
「少し再生しちゃいましたけど…止めろって言われたから1秒程度だけ」
私は静止した動画のタイムコードを移動させる。公園、側溝、仏間、女…それから、女の子、サナカ。そのブレた顔を眺めていた。
「フタさんはまだ連絡がとれるからいいけど、ロッピャクなんてもう…泣いてるのか怯えてるのか『ごめんなさい』とかいって通話が切れちゃってそのままなんだ」
「色々あったみたいですね…ハロは大丈夫なんですか?」
「俺はフタさんに口頭で動画の内容を聞いたんだ。それで、シップやロッピャクが来るまでこの動画がなんなのか謎解きをしてた」
「謎…とき」
「この動画が創作物ではないとして、撮影された場所はどこなのかとか、作成者の意図とかを考察してた。…っていうのも、ロッピャクは取り乱してるしフタさんは吐くしで、なんか冗談として受け取れなくてさ。この映像が」
「僕も見ていいですか?」
内容を確認したくなった。
「いや、やめておいたほうが…っていっても俺は見てないから説得力に欠けるんだけど、あまりお勧めはできない。なんとなくね」
「でももう、タイムコードをさわって大体の内容を静止した状態でみちゃってます」
「マジかよ…シップって意外と怖いもの知らずだよな」
「謎解きの進捗はどうですか?僕も知りたいです」
「大したことはわかってないよ。ただ映像の中で防災無線が聞こえてくるシーンがあるんだけど、そのときに■■区って言ってて、その場所が実在することが分かった」
「へえ…」
「で、マップで確認したんだけど■■区には大きな公園が3カ所、小さな公園が5カ所ぐらいあって…多分全部は把握しきれてないけど、その区全体が閑散とした住宅街や団地でできてることがわかった」
「結構近づいてるじゃないですか」
「でもわかってないことの方がまだ多いし…問題なのは映像の最後でさ」
「最後まで見たんですね」
「ロッピャクとフタさんがね。俺は見てない」
「最後になにが?」
私はハロにたずねた。
「『サナカを返してください』っていう文字が現れるんだ」
私は動画の最後のシーンにポインタを移動させた。確かにその文字は表示されている。
「それの何が問題なんですか?」
「フタさんと話してて、サナカっていうのは人の名前で、その人の為の映像なんじゃないかっていう感じに考察してた…シップ、お前は寝起きでぼんやりしてるんだろうけど、俺けっこう事態は深刻なんじゃないかって思ってるんだ」
ハロが静かにそう言った。確かに彼の言う通り、さっきまで深い眠りに落ちていた私は、彼の話をそこまで真剣に聞いてはいない。しかし彼がそういうのなら、もう少し聞いてみようと思った。
「はじめはロッピャクのいたずらかと思ったけど、ロッピャクの様子があまりにも異常なんですよね?だからハロとフタさんはこの映像の内容を深追いしてる」
「そう。あとこれは、今お前と話をしてて整理して感じたことなんだけど」
「なに?」
「この映像、行方不明者を探してるっていう動画に見せかけた、犯人への脅迫めいた…メッセージなのかなって」
「ちょっと待った。”犯人”って、なんですか?」
ハロの思考をひとつづつ紐解いていく。
「当事者がいると思うと不謹慎だし残念な話なんだけど、サナカっていうのは女の子で、もしかしたら事件か事故かに巻き込まれてもういないんじゃないかって思ったんだ。映像の中盤、仏間があらわれるだろ」
「…たしかに。ここですね。この薄暗い…中央に年寄りが座ってる」
「それお坊さんなのかな?葬式をしているようには見えないんだけど、でもそんな雰囲気だよな。それに加えて『返して』っていうメッセージ。きっとサナカを奪った人がいるんだろう」
「…でしょうね」
ふたりとも黙ってしまった。事の始まりから、夜はじっくりと徐々に更けてきている。
「ねえハロ、場所を特定したって言いましたよね。であればもう、そこで起きた事件か事故についても特定できてるんじゃないですか?」
「…それがさ」
ハロが言う。
「俺、一人になった後調べてみたんだけど、シップの言う通り確かにヒットしたんだ。動画データの名前の通り、2007年ごろに起きた事件が。でも行方不明とかじゃなくて、ほんとに事件で…人殺し事件だった」
「…」
ハロの言葉を待った。
「被害者の名前は出てなかった。詳しいことはあまり書かれてない」
「容疑者は?」
「捕まってないんだって。証拠不十分とか書いてあったけど…記事とかもそれっきりでさ。不完全燃焼」
「ちょっと待ってください。僕、調査は得意なんです」
「え?シップ、どうした」
「僕も調べてみます。■■区の女児殺人事件でいいですか?」
「う、うん」
私は画面を凝視したままキーボードに指を滑らす。未成年事件は名前がでないことも多い。しかし容疑者が捕まっていないのなら、他に疑うべきことがあるはずだ。
「ハロ、調べた住所、目星をつけた公園あたりのマップを僕に共有して」
「わかった。個別のDMで送るな」
すぐにハロからマップが共有された。私は自分の検索結果と地図上を照らし合わせた。
「事件が起きた場所はわかりません。ただ、地域のスレなら、当時数件のレスポンスがついたスレッドがたっていたみたい」
「ほんとか!?」
「これ」
私はグループチャットにとあるスレッドを共有した。
[女児●害事件]■■■公園ってことは光如会さんが関係してるんじゃね?
1:名無しの隣人:2007/09/07(金) 04:59:38.88 ID:d7d/vgg5c4
■■■公園ってそこら辺の人間が入信してるカルトの巣窟にある公園よな。
報道も全然されないし、キナ臭いのは明らか
2:名無しの隣人:2007/09/07(金) 06:34:21.54 ID:JBdDF1p/6
カルト絡みで女児を●しちゃう理由ないだろ
そんな凶悪カルト放っておかれてるわけない。wktkするのも大概にしておけ。
不謹慎だゾ
3:名無しの隣人:2007/09/07(金) 07:45:37.67 ID:d7d/vgg5c4
そうじゃなくて、●された側がカルトの人間だったら?
そういう闇深事件って徐々に報道もされなくなっていくもんだろ
4:名無しの隣人:2007/09/07(金) 08:02:54.12 ID:f5j/vKL1s7
事件は知らないけど、コウニョカイさんちがたくさんある地域ってことは確か
被害者がその信者の二世っていうのはここだけの話
書き込みながら怖くなってきた。
sage
書き込みは以上だ。
大した盛り上がりもないスレッドだが、ハロにとっては大きな発見だったかもしれない。
「すげえよシップ…これ、絶対関係ある。被害者は二世って、マジか」
「偶然であることを祈りたいですね」
「この…光如会…?っていう新興宗教は本当にあるんだ。実はもう調べたけど、かなりマイナーなんだけどこの地域発祥でさ…」
ハロの方からキーボードを叩く軽快な音が聞こえてくる。恐らくカルトについて調べているんだろう。
「そういう小さなカルトはたくさんありますからね。珍しくもないかも」
「名前からして仏教系…?であれば映像のなかにあった袈裟着た坊さんにつながるだろ?このHP、シップも見てく」
「偶然の域を超えましたね。僕ができるのはこのくらいかな」
興奮するハロを遮って話した。謎解きゲームでもしているかのような様子だ。世の中にこんな風に風化していく事件がたくさんあることが、私は不愉快でならなかった。
「ねえハロ」
「…どうした?シップ」
私はハロに声をかけた。
「最後にもう一つ、ヒントをあげますから、フタさんの調子が戻ったら二人でまた謎解きしてください」
「…え?どういうこと…」
私は丁寧に、ゆっくりとメッセ―ジを打ち込んだ。
そしてそれをグループチャットに送り付ける。
「…住所…?…これ、■■区じゃん…え、シップ、この住所なに?」
「僕はここまでです。ハロはちゃんと、探偵ごっこを終わらせてくださいね」
私はそういって、ボイスチャットから退出した。
「そんな感じ。シップ、動画見ちゃった?」
「少し再生しちゃいましたけど…止めろって言われたから1秒程度だけ」
私は静止した動画のタイムコードを移動させる。公園、側溝、仏間、女…それから、女の子、サナカ。そのブレた顔を眺めていた。
「フタさんはまだ連絡がとれるからいいけど、ロッピャクなんてもう…泣いてるのか怯えてるのか『ごめんなさい』とかいって通話が切れちゃってそのままなんだ」
「色々あったみたいですね…ハロは大丈夫なんですか?」
「俺はフタさんに口頭で動画の内容を聞いたんだ。それで、シップやロッピャクが来るまでこの動画がなんなのか謎解きをしてた」
「謎…とき」
「この動画が創作物ではないとして、撮影された場所はどこなのかとか、作成者の意図とかを考察してた。…っていうのも、ロッピャクは取り乱してるしフタさんは吐くしで、なんか冗談として受け取れなくてさ。この映像が」
「僕も見ていいですか?」
内容を確認したくなった。
「いや、やめておいたほうが…っていっても俺は見てないから説得力に欠けるんだけど、あまりお勧めはできない。なんとなくね」
「でももう、タイムコードをさわって大体の内容を静止した状態でみちゃってます」
「マジかよ…シップって意外と怖いもの知らずだよな」
「謎解きの進捗はどうですか?僕も知りたいです」
「大したことはわかってないよ。ただ映像の中で防災無線が聞こえてくるシーンがあるんだけど、そのときに■■区って言ってて、その場所が実在することが分かった」
「へえ…」
「で、マップで確認したんだけど■■区には大きな公園が3カ所、小さな公園が5カ所ぐらいあって…多分全部は把握しきれてないけど、その区全体が閑散とした住宅街や団地でできてることがわかった」
「結構近づいてるじゃないですか」
「でもわかってないことの方がまだ多いし…問題なのは映像の最後でさ」
「最後まで見たんですね」
「ロッピャクとフタさんがね。俺は見てない」
「最後になにが?」
私はハロにたずねた。
「『サナカを返してください』っていう文字が現れるんだ」
私は動画の最後のシーンにポインタを移動させた。確かにその文字は表示されている。
「それの何が問題なんですか?」
「フタさんと話してて、サナカっていうのは人の名前で、その人の為の映像なんじゃないかっていう感じに考察してた…シップ、お前は寝起きでぼんやりしてるんだろうけど、俺けっこう事態は深刻なんじゃないかって思ってるんだ」
ハロが静かにそう言った。確かに彼の言う通り、さっきまで深い眠りに落ちていた私は、彼の話をそこまで真剣に聞いてはいない。しかし彼がそういうのなら、もう少し聞いてみようと思った。
「はじめはロッピャクのいたずらかと思ったけど、ロッピャクの様子があまりにも異常なんですよね?だからハロとフタさんはこの映像の内容を深追いしてる」
「そう。あとこれは、今お前と話をしてて整理して感じたことなんだけど」
「なに?」
「この映像、行方不明者を探してるっていう動画に見せかけた、犯人への脅迫めいた…メッセージなのかなって」
「ちょっと待った。”犯人”って、なんですか?」
ハロの思考をひとつづつ紐解いていく。
「当事者がいると思うと不謹慎だし残念な話なんだけど、サナカっていうのは女の子で、もしかしたら事件か事故かに巻き込まれてもういないんじゃないかって思ったんだ。映像の中盤、仏間があらわれるだろ」
「…たしかに。ここですね。この薄暗い…中央に年寄りが座ってる」
「それお坊さんなのかな?葬式をしているようには見えないんだけど、でもそんな雰囲気だよな。それに加えて『返して』っていうメッセージ。きっとサナカを奪った人がいるんだろう」
「…でしょうね」
ふたりとも黙ってしまった。事の始まりから、夜はじっくりと徐々に更けてきている。
「ねえハロ、場所を特定したって言いましたよね。であればもう、そこで起きた事件か事故についても特定できてるんじゃないですか?」
「…それがさ」
ハロが言う。
「俺、一人になった後調べてみたんだけど、シップの言う通り確かにヒットしたんだ。動画データの名前の通り、2007年ごろに起きた事件が。でも行方不明とかじゃなくて、ほんとに事件で…人殺し事件だった」
「…」
ハロの言葉を待った。
「被害者の名前は出てなかった。詳しいことはあまり書かれてない」
「容疑者は?」
「捕まってないんだって。証拠不十分とか書いてあったけど…記事とかもそれっきりでさ。不完全燃焼」
「ちょっと待ってください。僕、調査は得意なんです」
「え?シップ、どうした」
「僕も調べてみます。■■区の女児殺人事件でいいですか?」
「う、うん」
私は画面を凝視したままキーボードに指を滑らす。未成年事件は名前がでないことも多い。しかし容疑者が捕まっていないのなら、他に疑うべきことがあるはずだ。
「ハロ、調べた住所、目星をつけた公園あたりのマップを僕に共有して」
「わかった。個別のDMで送るな」
すぐにハロからマップが共有された。私は自分の検索結果と地図上を照らし合わせた。
「事件が起きた場所はわかりません。ただ、地域のスレなら、当時数件のレスポンスがついたスレッドがたっていたみたい」
「ほんとか!?」
「これ」
私はグループチャットにとあるスレッドを共有した。
[女児●害事件]■■■公園ってことは光如会さんが関係してるんじゃね?
1:名無しの隣人:2007/09/07(金) 04:59:38.88 ID:d7d/vgg5c4
■■■公園ってそこら辺の人間が入信してるカルトの巣窟にある公園よな。
報道も全然されないし、キナ臭いのは明らか
2:名無しの隣人:2007/09/07(金) 06:34:21.54 ID:JBdDF1p/6
カルト絡みで女児を●しちゃう理由ないだろ
そんな凶悪カルト放っておかれてるわけない。wktkするのも大概にしておけ。
不謹慎だゾ
3:名無しの隣人:2007/09/07(金) 07:45:37.67 ID:d7d/vgg5c4
そうじゃなくて、●された側がカルトの人間だったら?
そういう闇深事件って徐々に報道もされなくなっていくもんだろ
4:名無しの隣人:2007/09/07(金) 08:02:54.12 ID:f5j/vKL1s7
事件は知らないけど、コウニョカイさんちがたくさんある地域ってことは確か
被害者がその信者の二世っていうのはここだけの話
書き込みながら怖くなってきた。
sage
書き込みは以上だ。
大した盛り上がりもないスレッドだが、ハロにとっては大きな発見だったかもしれない。
「すげえよシップ…これ、絶対関係ある。被害者は二世って、マジか」
「偶然であることを祈りたいですね」
「この…光如会…?っていう新興宗教は本当にあるんだ。実はもう調べたけど、かなりマイナーなんだけどこの地域発祥でさ…」
ハロの方からキーボードを叩く軽快な音が聞こえてくる。恐らくカルトについて調べているんだろう。
「そういう小さなカルトはたくさんありますからね。珍しくもないかも」
「名前からして仏教系…?であれば映像のなかにあった袈裟着た坊さんにつながるだろ?このHP、シップも見てく」
「偶然の域を超えましたね。僕ができるのはこのくらいかな」
興奮するハロを遮って話した。謎解きゲームでもしているかのような様子だ。世の中にこんな風に風化していく事件がたくさんあることが、私は不愉快でならなかった。
「ねえハロ」
「…どうした?シップ」
私はハロに声をかけた。
「最後にもう一つ、ヒントをあげますから、フタさんの調子が戻ったら二人でまた謎解きしてください」
「…え?どういうこと…」
私は丁寧に、ゆっくりとメッセ―ジを打ち込んだ。
そしてそれをグループチャットに送り付ける。
「…住所…?…これ、■■区じゃん…え、シップ、この住所なに?」
「僕はここまでです。ハロはちゃんと、探偵ごっこを終わらせてくださいね」
私はそういって、ボイスチャットから退出した。