良く晴れた日だ。
蝉の鳴き声が少し遠くから聞こえてくる。
8月に入り緑も虫も青々と輝き、アスファルトの照り返しでゆらゆらと陽炎が立ち上っていた。
夏は生と死の両方が隣り合う時期だ。足元に転がる虫の死骸をみながらそう思った。

「焼けたらしい」
唐突にそう声をかけられた。
振り向けば、父が薄暗い日陰に立ち尽くしている。私に声をかけたのだが、視線はあくまで下を見ていた。
「行くぞ」
何も答えず、だらしなく床に座ったままの私を置いて背を向けて、妹が火葬されたホールへと向かっていった。
父を一人にするわけにはいかない。そう思って立ち上がり、重い足取りで後を追う。
「ねえ、お父さん」
声をかけても父は答えない。
「お母さん、来なかったね」
答えてくれないのは分かっていたが、そう言ってみた。

ふたり分の靴音が、廊下に響いている。
その白い廊下を歩いていくと「上篠家」と書かれた目印が現れる。火葬ホールだ。そのなかでは白い手袋をはめた喪服のスタッフがちょうど、ほんの少しの骨を盆に並べている最中だった。その奥に、壺が佇んでいる。
あの骨を今から父と二人で拾い上げ、壺の中に入れていくのだ。葬式に参加するのは初めてだったが、父が事前に教えてくれたから知っている。

私は子供ながらにわざわざなぜ葬儀にそんな時間があるのか疑問で、やっぱり納得がいかなくて、いや、あとから思えば怖くて悲しかったのかもしれない。
妹が人の形をしていたのを知っている。そして惨たらしい姿になって帰ってきたのもこの目で見た。そこからさらに、肉がなくなるまで焼いて、骨になったところをこれから箸で拾うのだ。こんなことをされて妹は嫌だろうな。
葬儀が大嫌いだ。心底そう思った。
「おいで、いれてあげよう」
父がそう言って手招きする。列に並んだのは父と私だけ。スタッフは掴みやすい骨をきれいに並べて私たちを補助してくれた。
葬儀なんて、残された遺族の為だけのものだ。
それこそが葬儀を執り行うことの重要な側面なのかもしれないが、
私は妹の、佐奈花のこんな姿を見たくはなかった。