映像はまず、昼下がりにしては薄暗い、暗がりにある公園を映していた。
木々が揺れる音と一緒に聞こえてきたのはけたたましい犬の吠える鳴き声だ。
ノイズが入り混じった音声は時折不快な甲高い金属の音を一定の間隔でキィ、キィと鳴らしていた。
そこでやっとこの映像が静止画であることに気が付く。
映像内におさめられた遊具にその金属音の正体が写っていたからそう思った。おそらくブランコの揺れる音だと思う。
いまだに犬は吠え続けている。異様なほど鳴くその声は威嚇というよりも攻撃性を孕んでいた。

画面が切り替わる。
今度は動画だ。どこにでもあるような側溝に落ち葉や泥が溜まりヘドロのようになっている。
ちろちろと微かに水が排水溝へと流れていくが、手前の泥に邪魔されそこをさらに汚していくばかりだ。
映像が乱れる。また同じ側溝が映し出されたが、別角度から撮影されていた。
同じ場所だと思うのだが、そこには落ち葉ばかりではなく何か色のついたものが紛れ込んでいた。
青色だろうか。汚れてしまっていてはっきりは確認できなかった。映像はそのまま、5秒程度の間隔でその様子が何度か繰り返された。
何度目かのリピートで、唐突にまた大きなノイズが鳴る。防災無線の音声だ。

『こちらは・・・■■区・・です。』音割れが酷く聞き取りづらい。
ハウリングなのか頭を劈くような高音が不快だ。
『・・ちゃんが、行方不明に・・・』
失踪者を知らせる無線は、重なるようにして鳴り始めた日没前の”ゆうやけこやけ”が搔き消してしまった。

『それではねえ、みなさん揃っていますかね』
再び画面が切り替わった。唐突にしわがれた声がはっきりそう言って、真っ暗な画面がチカチカと明滅する。酷いフラッシュだ。
そしてまた突然何か膜一枚隔てたグレーのぼんやりと暗い壁か布に反射するように画面は白く光る。
ざわざわと複数名の声と人々が慌ただしく動く音がする。マイクに何か擦れているような音だ。それに紛れてヒソヒソとした会話や食器がなるような音が聞こえてくる。何故こんなに不快に感じるのか。例えるなら自分自身が袋に入り、それを転がされるような、そんな窮屈さを覚える。
一度暗転したあと、そこには仏間に座る老人の後姿が映し出された。しかし映像はカメラを横にして撮影されたのか、90度傾いた見えづらい映像だった。老人だ、と思ったのはその、おそらく男が坊主頭で瘦せていて、後頭部からでも分かるほど顔色が悪く、そして首から顔の方にかけてシミのようなものがあったからだ。
着ているのは袈裟か、彼は仏壇の前に鎮座している。『・・ごくおつるごうにて・・すべから・・』声が遠くて聞こえづらい。
その男は念仏というよりも何かを語るようにゆっくりと話している。何を話しているのか聞き取ろうと耳を澄ませてみてもやはり聞こえない。音量の問題ではなくまるで耳が水で詰まっているような感覚だ。
ふと、画面内に影が落ち、そして次の瞬間男が振り返るが、その顔はとある女の顔でさえぎられた。
畳から見上げる形で撮影されていた映像は、やはりカメラを床に置いていたらしく、酷く血走った、文字通り目を真っ赤に腫らした女が画面いっぱいに映し出された。
『んなもん持ってきてえええええええええええええ」
そのまま顔をゆがませ開いた口は傷だらけで汚い口内を映した後黒い唾がレンズにかかり、そして大きく揺れた。窓が割れる音。回転した映像。映し出された鬱蒼とした庭。
子供用のバケツとスコップが土に埋まりかけていた。
『ーーーー!!!!ーーー!!!!』
女のヒステリックな叫び声と何かを殴打するような音。
叫び声は悲痛さなどではなく憎悪に満ちているのが言葉を聞き取れずとも伝わってきた。

また、画面が切り替わった。
青いギンガムチェックのワンピースを着た少女の後姿だ。ケラケラとかわいらしく笑う声。
少し先へ走ったりしゃがんだり、先ほどの喧騒が嘘のような映像だった。河川敷を走っていく少女は少しして振り返りこちらに走りながら戻ってきた。


『ねぇええええええええええ、ええ、えええええええええええええええーーーーー』
画面いっぱいに自分の笑顔を映した少女の顔。そしてその声は音声がバグったかのように奇妙な音に変わる。少女の面影から小学生低学年ほどの年齢だろうか。季節が夏なのか蝉のような鳥のような雑音がノイズのように耳を劈いてきた。

最後に、映像は黒を映して、そこに文字が記されて終了する。

『サナカを返してください』