45.

戸黒さんが遺した数々の資料と、彼自身の最期の手紙。
これらを目にしたとき、私は身のうちから湧き上がるぞっとするような戦慄に襲われました。
加藤さんの死(?)、そして戸黒さんの死。その二つがこの怪異めいた内容と結びついているのか否か、断言はできません。
ただ、そこには私たちの想像を超えた「何か」があるということは間違いない気がします。

これまで、戸黒さんが長い時間をかけて収集・調査していた断片的なメモや古文献の抜粋、さらに彼の考察が書き加えられた資料などを上げてきました。
その中で繰り返し登場する「あめつちの詞」には、末尾に理解不能な16音―――「ゆわさる おふせよ えの𛀁を なれゐて」に対応する16文字の漢字、つまり本来の意味が確実に存在するのだと示されました。
しかも、それらは古来から祝詞や呪詞のような形で秘匿されてきたというのです。
儀式に人間の生贄を供えてまで、“何か”の力を得ようとしていた――そう思わせる記述の数々は、読んでいるだけで胸が悪くなるほどの薄暗さを帯びています。

さらに、ムカデという気味の悪いモチーフが、これらの資料内では幾度となく象徴的に扱われていました。
ムカデは古の資料が示すとおり、聖なるものとして、また同時に何か邪悪な象徴として記録されてきた節があります。
戸黒さんも、ある種の呪術的儀式や人柱に近いものと関連づけて考えていたようでしたが、詳細は決して一筋縄では解き明かせない闇の中に沈んでいるとしか思えません。

そして、資料全体を丹念に読み解いてみると、どこかのトンネル――そして、きっと今はダム湖底に沈んでしまった村、そしてそこで行われてきた祭りが深く関わっているという考察にたどり着きました。かつてそこに暮らしていた人々は、代々この「16文字」を守り、あるいは封印するように伝えていたのかもしれません。

だとすれば、それは忌むべき力の流入を防ぐためだったのか、それとも活用するためだったのか。明確な答えは資料のどこにも記されていませんでした。ただ、戸黒さんの手紙には、この事実に足を踏み入れることの恐ろしさを暗に示唆するような表現も散見されます。
そのトンネルを訪れる者に何が起こるのか、想像するだけで血の気が引いてきます。

私はこれ以上の追究をするつもりはありません。
加藤さんと戸黒さん、それぞれの不幸の影にちらつく何か……それを追うには、あまりにも危険すぎると感じるからです。夜になるたび、胸の奥がざわめき、薄暗い底から何者かが這い出てくるような恐怖感に苛まれます。それでももし、この物語に興味を持ち、真実を掴もうとする方がいれば、私が手にしているこれらの資料を糸口として役立てていただきたいのです。戸黒さんはきっと、そのために自らを犠牲にしてまで手掛かりを残そうとしたのだと信じています。

最後になりますが、戸黒さんのご冥福を心から祈っています。

彼が何をそこまで恐れ、そして何を求めていたのか……。私が受け取った彼の最後の手紙には、その答えの一端が記されているように思えてなりません。ここに、その手紙を添えます。
皆さま、どうかくれぐれもお気をつけて——。