32.●●放送「イブニングアイG」1994年11月7日放送回


●●放送「イブニングアイG」1994年11月7日放送回の録画より書き起こし

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「みなさん、こんにちは。本日は〇〇村の伝統行事『ヒカゲ祭り』の模様を、現地からお伝えしています」

カメラが緩やかにパンし、広場全体を捉える。白装束と黒装束の二列が向かい合って並んでいる。左手のカメラは白装束の列に固定され、右手のカメラは黒装束の列を捉えている。双方の映像が画面分割で映し出される。両者は太鼓の一打を合図に、ゆっくりと歩き始める。

「ドン」

白装束の列からは、まるで音も立てないかのような静かな足取りが続く。足袋を履いた足が地面を進む様子だけが、克明に映し出される。一方、黒装束の列からは特徴的な足音が響く。

「ざりざりっ...ざりざりっ...」

マイクが黒装束の列から発せられる粗い足音を拾う。黒装束の人々の足が、地面を削るような音を立てながら前進していく。カメラは広場の外側に並ぶ観客の列も映し出す。老人から子供まで、村人たちが固唾を呑んで見守っている。太鼓の音が徐々に早くなっていく。

「ドン...ドン...ドンドンドン」

白と黒の二列は、広場の中央で交差する。カメラが空撮に切り替わり、まるで陰陽を描くかのように旋回する二列の動きを捉える。突如、太鼓の音が激しさを増す。

「ドドドドン!」

白装束の列が前進を始める。カメラはローアングルで、白装束の列が黒装束の列に向かって迫っていく様子を捉える。黒装束の列からは、より荒々しい足音が響き始める。

「ざっ!ざっ!」

観客の間から小さなどよめきが起こる。カメラは両者の動きを追いながら、次第に村の奥にある温泉が見える位置までパンしていく。白装束の列の無音の前進と、黒装束の列の荒々しい足音が対照的に響く。白装束の列が扇状に広がり、黒装束の列を包み込むように迫っていく。まるで網を締めていくかのような動きに、観客からさらなるどよめきが起こる。黒装束の列が温泉の縁まで追い詰められる。カメラは、彼らが一斉に温泉へと後ずさりする様子を捉える。

「ざざっ!」

―――黒装束の人々が次々と温泉に飛び込んでいく。水しぶきが上がり、湯気が立ち込める。カメラは水面を捉え続ける。

最初は黒い靄のように色が広がり始める。それは次第に渦を巻くように水面全体に染み出していく。そこに、一点から赤みを帯びた色が混ざり始める。まるでインクが水面に落ちたように、ゆっくりと拡散していく様子が映し出される。

カメラは水面に映る夕空の色が、徐々に濃い赤黒い色に変わっていく過程を克明に捉える。上空からのアングルに切り替わると、まるで水面に何かが溶け出していくかのように、渦を描きながら色が広がっていく。

温泉全体が濃い赤黒い色に染まっていく中、立ち込める湯気もその色を帯びていくかのように見える。

「ご覧ください。温泉の色が変化しています。これはヒカゲ祭りの伝統的なクライマックスの瞬間です」

夕闇が迫る中、白装束の人々が温泉を取り囲み、黒装束の人々は赤黒く染まった湯煙の中にその姿を消していく。温泉からは濃い湯気が立ち上り、それは次第に辺りの景色を朧げにしていく。

カメラが広場の端を映し出す。祭りを見守っていた観客の群れの中から、十数人の子供たちが走り出てくる。手には小さな黒い紙を握りしめている。

「おふせよ!おふせよ!」

子供たちの掛け声が次々と響き渡る。カメラは彼らの表情を捉えようとするが、照明の具合なのか、どことなく不自然に映る。

「あ、申し訳ありません。子供たちの表情が... カメラの設定を変えさせていただきます」

それでもカメラは子供たちの姿を追い続ける。彼らは赤黒く染まった温泉に向かって走り寄り、まるで誰かに操られているかのような一糸乱れぬ動きで、口々に「おふせよ!おふせよ!」と叫びながら、手にした黒い紙を投げ入れていく。

「...スタジオ、音声が少し気になりますが、このまま中継を続けてよろしいでしょうか。はい...承知いたしました」

カメラが温泉の水面に寄っていく。投げ入れられた黒い紙が、濡れて水の底に沈んでいく様子が克明に映し出される。そして、黒い紙が温泉の色を吸い込んでいくかのように、徐々にその色を変えていく。

カメラはさらにズームインし、一枚の黒い紙が、さらに赤黒く染まるまでの過程を捉える。湯気越しに映る紙の色の変化が、画面いっぱいに映し出される。子供たちの「おふせよ!おふせよ!」という掛け声は、次第に遠ざかっていく。

「この『ヒカゲ祭り』は、地元の神社に伝わる古い資料にその記録が残されており、数百年前から続く伝統行事とされています。また、このような独特な形式の祭りになったのは、この地域に伝わる古い伝説がもとになっているとされています」

カメラは最後に広場全体を見渡すように緩やかにパンする。

「現地からは以上です。スタジオにお返しします」

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