25.白い服の女
この前、サークルの先輩が合宿の飲み会で話してくれたんだけど、いまだに背筋が寒くなる話があるんだよね。
先輩は心霊現象とか全然信じないタイプで、むしろ怖い話をからかう側の人だった。
それなのに、その時だけは妙に真剣な顔してさ、みんなシーンとなって聞き入ったんだ。
先輩の友人に、週末によくドライブをする人がいたんだって。
ある深夜、とあるダム沿いの道路を走ってる最中に、ドライブレコーダーが不気味な映像を撮影したんだそう。
対向車のライトもまばらな真っ暗な道で、車の前を横切るように白い服の女がスッと現れた。
びっくりして急ブレーキを踏んだけど、橋を渡る手前でその女は消えるようにいなくなったらしい。
だけど、後日その動画を見返してみると、消えたはずの女が助手席の窓の外からじっとこっちを見つめてるんだって。
まるでカメラと目が合うような感じでさ。あまりにも生々しくて、一緒に見てた人たちも凍りついたそうだよ。
そのヤバい動画は一時期YouTubeにもアップされてたらしいんだけど、気づいたら削除されてて今はもう見られないんだって。
どうもその削除のタイミングと同じくらいに、撮影者が例のダム沿いで事故を起こしたらしくてね。
ハンドル操作を誤ってダムに転落したんだ。
まるであの女に呼ばれるようにそっちに向かって行ったみたいにさ。それで事故車両が引き上げられた後、撮影者はもう亡くなっていた…。
先輩の友人はその知らせを聞いて、すぐに動画を非公開にしたとかなんとか。
さらに気味が悪いのが、その白い服の女って他でも目撃例があるらしいんだ。
同じダム周辺で夜釣りに行った釣り人が見たとか、近くのキャンプ場にいた家族連れが夜中に橋の上で女とすれ違ったとか…。
しかも、その事故現場には今も何か意味不明のものが残っているっていう話なんだ。
先輩も詳しくは知らないんだけど、ガードレールに意味不明な言葉みたいなの書かれてて、一見するとただの落書きかと思うんだけど妙に気味悪いって話だよ。
地元の人もあまり近づきたがらないらしくて、なんとなく“呪いの言葉”みたいな雰囲気があるんだってさ。
先輩は「まぁ、どこまで本当かは知らないけど、あそこに行くときは気をつけろよ」と苦笑いして言ってたんだけど、あのときの表情は冗談じゃなかった。
あんまりこういう話を信じる方じゃないんだけど、先輩から聞かされて以来、あのダムのあたりを車で通るのはどうにも気味が悪くてさ。
もう夜中には絶対近寄りたくないよ。
もし行くときがあったら、絶対にドライブレコーダーなんて回さないようにするつもりだ。
万が一、白い服の女が映ったらと思うと…正直、ゾッとするよね。
ほんと、先輩が酒の席で冗談半分に話すつもりだったなら、もう少し笑えるオチがほしかったよ…。」
(2010年10月15日 ブログ記事より採集)
==== ==== ==== ====
「この間の話には実は続きがあってね……」と先輩は顔を曇らせながら、さらに奇妙な話をしてくれたんだ。
先輩本人はあの映像を見た翌週、どうにもモヤモヤが晴れなくて、深夜にひとりで同じダム沿いの道を走ってみたんだって。
もちろん幽霊なんか信じてなかったから、むしろ“本当にそんな女が現れるのか?”っていう好奇心のほうが強かったらしい。
ところが、ダムの近くに差しかかったあたりで車のエンジン音が急に不安定になって、電装系がおかしくなりはじめた。
ライトが点滅したり、カーナビの画面がフリーズしたり。
さらに妙なことに、助手席のシートベルトが“カチッ”と締まる音がしたんだって。
誰も座っていないはずなのに、シートベルトが勝手に動いたんだよ。
ゾッとした先輩は「やべえ」と思いながらも運転を続けた。
するといつの間にか視界の端に“白い人影”が見えたらしい。まさかと思って一瞬だけ横目で見たら、それは髪の長い女。
こっちを向いているかどうかは分からなかったけど、ワンピースみたいな服がライトに照らされてぼんやりと白く浮かんでいた。
怖くなってアクセルを踏み込んだ先輩だけど、なかなかスピードが出ない。エンジンがうなるばかりで速度計はほとんど動かない。
もう頭がパニックになりかけたとき、突然バチンと何かが弾けるような音がして、電装系が復活したんだ。
慌ててバックミラーを見たけど、そこには何もいなかった。
やっとまともに走れるようになった先輩は、全力でそこから逃げ帰ったらしい。
ところが、さらにおかしなことが起きたのはその翌日。
深夜、先輩のスマホに“非通知”から電話がかかってきた。
寝ぼけまなこで取ってみると、聞き取れない雑音が延々と続いていて、声なのか何なのかよく分からない。
気味が悪くてすぐ切ったんだけど、着信履歴を見たら“00:00”って時間が表示されてたんだ。
先輩は「冗談でしょ……?」と思いながらスマホを再起動したけど、その履歴だけは消えないまま残っていたって。
それ以降、先輩のもとにそんな怪電話が立て続けにかかってくるようになったらしい。
そのうち先輩の友人がダムに転落して亡くなった時刻も“深夜0時前後”だったってわかって、もう偶然とは思えないだろ?
先輩自身は、あの場所で一度でも変な“何か”を連れてきてしまったんじゃないかって本気で恐れるようになったらしくて、ダム周辺には二度と近づかないって決めたらしいよ。
俺たちはそこまで聞いて、完全に凍りついた。
あの映像がYouTubeにアップされてたのを観たという先輩の友人も、実際にその動画を見たあとすぐに謎の体調不良を起こしてるって話も聞くし、なんだかすべてが繋がってるように思えてさ。
ダム沿いの道で何かが起きてるのは間違いなさそうだけど、何をどうしたって説明がつかない。
とにかく、あそこには絶対に近づかないようにしようって、サークル内でも暗黙の了解みたいになってるんだよね。
先輩も、「冗談抜きであの場所はやばい」って、真顔で言うからさ。
俺もそれ以来、夜のダムには行く気がしないんだよ。
今でもあの白い服の女がどこかでふわりと立っていて、誰かをじっと見つめてるんじゃないかって思うと、想像するだけで鳥肌が立つんだよね。
(2010年10月28日 ブログ記事より採集)
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この前、サークルの先輩が合宿の飲み会で話してくれたんだけど、いまだに背筋が寒くなる話があるんだよね。
先輩は心霊現象とか全然信じないタイプで、むしろ怖い話をからかう側の人だった。
それなのに、その時だけは妙に真剣な顔してさ、みんなシーンとなって聞き入ったんだ。
先輩の友人に、週末によくドライブをする人がいたんだって。
ある深夜、とあるダム沿いの道路を走ってる最中に、ドライブレコーダーが不気味な映像を撮影したんだそう。
対向車のライトもまばらな真っ暗な道で、車の前を横切るように白い服の女がスッと現れた。
びっくりして急ブレーキを踏んだけど、橋を渡る手前でその女は消えるようにいなくなったらしい。
だけど、後日その動画を見返してみると、消えたはずの女が助手席の窓の外からじっとこっちを見つめてるんだって。
まるでカメラと目が合うような感じでさ。あまりにも生々しくて、一緒に見てた人たちも凍りついたそうだよ。
そのヤバい動画は一時期YouTubeにもアップされてたらしいんだけど、気づいたら削除されてて今はもう見られないんだって。
どうもその削除のタイミングと同じくらいに、撮影者が例のダム沿いで事故を起こしたらしくてね。
ハンドル操作を誤ってダムに転落したんだ。
まるであの女に呼ばれるようにそっちに向かって行ったみたいにさ。それで事故車両が引き上げられた後、撮影者はもう亡くなっていた…。
先輩の友人はその知らせを聞いて、すぐに動画を非公開にしたとかなんとか。
さらに気味が悪いのが、その白い服の女って他でも目撃例があるらしいんだ。
同じダム周辺で夜釣りに行った釣り人が見たとか、近くのキャンプ場にいた家族連れが夜中に橋の上で女とすれ違ったとか…。
しかも、その事故現場には今も何か意味不明のものが残っているっていう話なんだ。
先輩も詳しくは知らないんだけど、ガードレールに意味不明な言葉みたいなの書かれてて、一見するとただの落書きかと思うんだけど妙に気味悪いって話だよ。
地元の人もあまり近づきたがらないらしくて、なんとなく“呪いの言葉”みたいな雰囲気があるんだってさ。
先輩は「まぁ、どこまで本当かは知らないけど、あそこに行くときは気をつけろよ」と苦笑いして言ってたんだけど、あのときの表情は冗談じゃなかった。
あんまりこういう話を信じる方じゃないんだけど、先輩から聞かされて以来、あのダムのあたりを車で通るのはどうにも気味が悪くてさ。
もう夜中には絶対近寄りたくないよ。
もし行くときがあったら、絶対にドライブレコーダーなんて回さないようにするつもりだ。
万が一、白い服の女が映ったらと思うと…正直、ゾッとするよね。
ほんと、先輩が酒の席で冗談半分に話すつもりだったなら、もう少し笑えるオチがほしかったよ…。」
(2010年10月15日 ブログ記事より採集)
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「この間の話には実は続きがあってね……」と先輩は顔を曇らせながら、さらに奇妙な話をしてくれたんだ。
先輩本人はあの映像を見た翌週、どうにもモヤモヤが晴れなくて、深夜にひとりで同じダム沿いの道を走ってみたんだって。
もちろん幽霊なんか信じてなかったから、むしろ“本当にそんな女が現れるのか?”っていう好奇心のほうが強かったらしい。
ところが、ダムの近くに差しかかったあたりで車のエンジン音が急に不安定になって、電装系がおかしくなりはじめた。
ライトが点滅したり、カーナビの画面がフリーズしたり。
さらに妙なことに、助手席のシートベルトが“カチッ”と締まる音がしたんだって。
誰も座っていないはずなのに、シートベルトが勝手に動いたんだよ。
ゾッとした先輩は「やべえ」と思いながらも運転を続けた。
するといつの間にか視界の端に“白い人影”が見えたらしい。まさかと思って一瞬だけ横目で見たら、それは髪の長い女。
こっちを向いているかどうかは分からなかったけど、ワンピースみたいな服がライトに照らされてぼんやりと白く浮かんでいた。
怖くなってアクセルを踏み込んだ先輩だけど、なかなかスピードが出ない。エンジンがうなるばかりで速度計はほとんど動かない。
もう頭がパニックになりかけたとき、突然バチンと何かが弾けるような音がして、電装系が復活したんだ。
慌ててバックミラーを見たけど、そこには何もいなかった。
やっとまともに走れるようになった先輩は、全力でそこから逃げ帰ったらしい。
ところが、さらにおかしなことが起きたのはその翌日。
深夜、先輩のスマホに“非通知”から電話がかかってきた。
寝ぼけまなこで取ってみると、聞き取れない雑音が延々と続いていて、声なのか何なのかよく分からない。
気味が悪くてすぐ切ったんだけど、着信履歴を見たら“00:00”って時間が表示されてたんだ。
先輩は「冗談でしょ……?」と思いながらスマホを再起動したけど、その履歴だけは消えないまま残っていたって。
それ以降、先輩のもとにそんな怪電話が立て続けにかかってくるようになったらしい。
そのうち先輩の友人がダムに転落して亡くなった時刻も“深夜0時前後”だったってわかって、もう偶然とは思えないだろ?
先輩自身は、あの場所で一度でも変な“何か”を連れてきてしまったんじゃないかって本気で恐れるようになったらしくて、ダム周辺には二度と近づかないって決めたらしいよ。
俺たちはそこまで聞いて、完全に凍りついた。
あの映像がYouTubeにアップされてたのを観たという先輩の友人も、実際にその動画を見たあとすぐに謎の体調不良を起こしてるって話も聞くし、なんだかすべてが繋がってるように思えてさ。
ダム沿いの道で何かが起きてるのは間違いなさそうだけど、何をどうしたって説明がつかない。
とにかく、あそこには絶対に近づかないようにしようって、サークル内でも暗黙の了解みたいになってるんだよね。
先輩も、「冗談抜きであの場所はやばい」って、真顔で言うからさ。
俺もそれ以来、夜のダムには行く気がしないんだよ。
今でもあの白い服の女がどこかでふわりと立っていて、誰かをじっと見つめてるんじゃないかって思うと、想像するだけで鳥肌が立つんだよね。
(2010年10月28日 ブログ記事より採集)
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