22.インタビュー音声記録「山奥の社」


[テープ起動音]

――では、その日のことについて、覚えている範囲で詳しく教えていただけますか。

はい...。去年の12月21日のことです。私と友人の青木、それから佐藤の3人で温泉旅行に行くことになりました。青木が運転免許を取得したばかりで、せっかくだから遠出してみようということになって。確か佐藤が見つけた山間の温泉で、口コミサイトでも「隠れた名湯」として評価が良かったんです。

その日は朝9時に青木の家に集合して...。天気は曇り空でしたね。時々小雨が降るような感じで。佐藤が車の助手席で地図を確認しながら、私は後部座席でスマートフォンを見ていました。

で、現地まであと1時間くらいのところで...。山道を走っていた時です。佐藤が「あ、なんかある」って言って。道端に小さな祠があったんです。普通の神社とかじゃなくて、本当に小さな祠で。周りには背の高い松の木が生えていて、冬枯れした草が風で揺れていました。

青木が「ちょっと見てみようよ」って言い出して。確かにみんな気になっていたので、車を路肩に停めて降りてみることにしました。祠自体は古びていて、屋根の一部が欠けていて...。でも不思議とその場所には独特の雰囲気があったんです。神聖な感じというか...いや、今思えば違うかもしれません。何か...異質な空気感でした。

その時、青木が祠の近くの地面に落ちている黒くて細長い紙切れに気付いたんです。ただの紙切れみたいでしたが、四方に切れ込みが入れられていて、最初に見たときは、なんというか虫のように見えました。青木がそれを拾い上げて、「なんだろう」って言いながら確認していましたが...特に何も書かれてはいなかったようです。

私はその時、青木に「捨てておいた方がいいんじゃない?」って言おうと思ったんです。でも、なぜかその言葉が喉まで出かかって、飲み込んでしまって...。今でも後悔しています。あの時、はっきりと言えていれば...。

[短い沈黙]

――その後、温泉に向かわれたんですよね?

はい。車に戻って15分くらい走った後だったと思います。突然、青木が運転しながら「なんか...音が聞こえる」って言い出して。青木の話では、カサカサとした音で、何かが這うような...不快な音だったそうです。

佐藤も私には全く聞こえなかったんですが、青木はずっと「聞こえる、聞こえる」って繰り返していて...。表情も少しずつ強張っていくのが分かりました。

温泉には予定通り到着して、一応普通に入浴もしました。でも青木は、さっきから聞こえるって言っていた音のことを気にしている様子で...。お風呂の中でもずっと耳を傾けるような仕草をしていました。

帰りの車の中では、青木は無言でした。いつもはよく喋る子なのに...。私たちも何となく声をかけづらくて。ラジオだけが車内に流れていました。

それから3日後...。佐藤から連絡があって。「青木と連絡が取れないんだけど」って。SNSの既読もつかないし、電話にも出ないって。私たちで青木の家に行ってみることにしました。

[深いため息]

玄関のドアが開いていて...。靴も散乱していました。部屋の中から、ブツブツと聞こえる声に導かれて行くと...。青木が部屋の隅で座り込んでいたんです。でも、あれは青木じゃなかった。いや、体は青木なんですが...。

「カサカサする...体の中で...這い回る...」って、延々と繰り返していて...。私たちが声をかけても、まともな受け答えはありませんでした。目つきも...虚ろというか、でも時々すごく鋭い光を放つような...。

救急車を呼んで、そのまま病院に搬送されました。青木の両親も駆けつけて...。私たちはそこで帰されました。

それから1週間くらいして、佐藤が見舞いに行ったそうです。でも、青木は相変わらず同じことを繰り返していて...。時々、体を掻きむしるような動作をするから、手首を拘束されているって...。

[長い沈黙]

――その紙切れについて、もう少し詳しく覚えていることはありますか?

はい...。今にして思えば変な感じのする紙切れでした。それと、触れていた青木の指先が...黒ずんでいたような気がします。最初は気付かなかったんですが...。あと、車の中で青木が「音が聞こえる」って言い出した時、その紙切れを握りしめていました。私、それを今思い出しました...。

でも、その紙切れは今どこにあるのか分かりません。青木の家でも見つかっていないそうです...。

[テープ停止音]

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※動画サイトより加藤氏が採集。現在ページは非公開