１４．戸黒さんの日記（2022年7月27日）

2022年7月27日―――

件の埋蔵金の伝承についての調査を始めてから、気がつけばもう何年もの歳月が過ぎた。地方の図書館や古い寺社を訪ね歩き、古文書や住民たちの話を丹念に掘り起こしてきたが、それでもなお全貌を掴むには程遠い。そんな中、最近公開された公文書に興味を惹かれ、今日は図書館に足を運んできた。

閲覧室で目当ての資料に目を通していたとき、少し離れた席で同じように古い公文書に没頭する人物の姿が目に入った。見たところ50～60代と思われる痩せた体つきの男性で、眼鏡越しに真剣な眼差しを向けている。その集中した様子が気になり、「地域の歴史にご興味があるんですか？」と声をかけてみた。
驚いたように顔を上げたその男性は、少し考えてから「ええ、そうです。」と言ってにこりと微笑んだ。「加藤と申します」と名乗った彼は、私と同じように地域の歴史や伝承、特に埋蔵金と「あめつちの詞」の関連を長年調べているという。私も、この件を長く追い続けてきたが、同じ切り口でこの件を探求している人に出会ったのは初めてだった。

その後、近くの喫茶店で話をすることになった。加藤氏の持つ知識は私を圧倒するほど豊富で、その解釈や視点には独自の深みがあった。彼は、伝承にまつわる断片的な情報を関連付け、それらから独自のストーリーを導き出す能力に長けていた。

「伝承というのは、人間の業やその積み重ねを映し出すものです。それを紐解くことで、私たち自身の姿を改めて知ることができるのではないでしょうか」と加藤氏は語った。その言葉には、長年この道を歩んできた重みと洞察が感じられた。

これまで孤独に続けてきた調査だったが、同世代の加藤氏という友人を得たことで、私の視界は一気に広がっていく気がしている。
この地に隠された真実を解き明かす旅は、まだ続く。
今日の出会いそして、彼の話した内容を忘れないようノートに整理しておこうと思う。