「石碑の場所を突き止めるしかないですね」
河原田は阿久津の地図をもとに、廃村と思われる場所を特定する作業を進めることにした。
阿久津も同行することを約束し、ふたりはその週末に現地調査を行うことを決めた。
2024年5月27日 午前9時15分
河原田と阿久津は車で山道を進み、地図に示された地点へ向かう。
だが、問題はその「場所」が地図上にあるにも関わらず、どのカーナビでも道が表示されないことだった。
阿久津が持参した紙の地図も、進むにつれて精度が曖昧になり、最終的には道が消えるような形で途切れていた。
「ここで終わりってことか?」
阿久津は地図をひっくり返しながら首をかしげた。目の前には車が通れないような狭い山道が続いているだけだ。
「進むしかないですね」
河原田は簡易的な撮影機材とノートを手に、阿久津とともに徒歩で道なき道を進んでいくことにした。
2024年5月27日 午前11時30分
1時間以上歩き続けたふたりは、ようやく廃墟らしき場所にたどり着いた。
目の前に現れたのは、朽ち果てた鳥居と、雑草に埋もれた建物の残骸だ。
鳥居には赤黒く染み付いた何かがついており、近づくと微かな腐臭が漂っていた。
「これが……例の場所なのか?」
阿久津が鳥居に触れようとした瞬間、「やめてください!」と声が響いた。突然の声に驚いて振り返ると、そこには一人の老婆が立っていた。
「ここに来た者は、みんな帰れなくなる……あんたたちも早く帰りなさい!」
老婆は杖をつきながら、怒りとも怯えとも取れる表情でふたりを睨みつけた。
河原田が事情を説明しようとするも、老婆は話を聞かずにただ「帰れ」と繰り返すばかりだった。
「この鳥居をくぐれば、向こう側に入ってしまうんだよ……戻れなくなるんだ」
老婆の言葉には妙な説得力があり、阿久津はその場で足を止めてしまった。
しかし、河原田はどうしても引き返すことができなかった。
「失踪者たちの真相を探るためです。どうしても調べる必要があるんです」
河原田の強い口調に、老婆はしばらく沈黙した。そして、小さな声で呟くように言った。
「じゃあ、せめてこれを持っていきなさい……」
老婆が差し出したのは、古びたお札のようなものだった。
