2024年6月1日 午前2時20分


阿久津が目を覚ました時、彼は暗闇の中に立っていた。

だが、その暗闇はただの闇ではなかった。

空間そのものが渦を巻き、形のない何かが蠢いている。


「ここは……どこだ?」


彼の声は闇に吸い込まれるように響き、すぐに消えた。

ふと目の前に浮かび上がる光。

それは先ほどの本「選択者の記録」だった。


「選択者とは……俺のことなのか?」


本に手を伸ばすと、その表紙が再び赤く光り、ページが一枚ずつ自動的にめくられていく。

そして最後のページが開いた瞬間、文字が浮かび上がった。


「最後の選択をせよ。」


文字とともに、阿久津の足元から現れたのは、二つの扉だった。

一つは血のように赤い扉、もう一つは虚無を象徴するかのような黒い扉。


「選択……。どっちを選べばいいんだ?」


阿久津は二つの扉を見比べるが、どちらにも手がかりはなかった。

ただ、両方の扉から“何か”が漏れ出している感覚がした。


「赤き扉は新たな均衡を築き、黒き扉はすべてを無に帰す。だがどちらも、代償は避けられない。」


記録から聞こえる声は冷淡だった。選択が阿久津自身の意思によるものかどうかは関係ない、とでも言うように。


「均衡か、無か……。」


選択肢を前に、阿久津は自身の旅路を思い返した。

すべては未知なる扉を開けたことから始まり、ここまで彼を導いてきた。


「もしこれが俺の責任なら……俺が決めるしかない。」


彼は深呼吸をし、意を決して赤い扉に手を伸ばした。


赤い扉を開いた瞬間、阿久津の視界は強烈な光に包まれた。

光が消えた時、彼は元の廃墟に戻っていた。

だが、その廃墟は以前とは異なっていた。

建物は朽ち果てず、まるで時間が逆戻りしたように新しさを取り戻している。

そして、周囲にはかつて消えた人々が戻ってきていた。


「これが……均衡?」


彼は安堵する暇もなく、自身の体に異変を感じた。

手の甲に奇妙な模様が浮かび上がり、それが彼の全身に広がっていく。


「代償って……これのことか……。」


彼の意識が薄れ、地面に崩れ落ちた。