2024年5月15日、地方紙『東北タイムズ』の若手記者・河原田は、昼休憩中にスマートフォンを眺めながら興味を引く掲示板投稿を見つけた。

それは何とも奇妙な内容だった。


「行方不明になった友人を探しています。」


投稿者はこの一文とともに、いくつかの写真を添付していた。

ぼんやりとしたピントの風景写真には、朽ちた鳥居、崩れかけた木造家屋、そして鬱蒼とした森が写っている。

しかし、その場所については詳細な説明が何もなく、投稿者が書いているのは断片的な言葉だけだった。


「この村、地図に載ってないんです。見つけた人はいないけど、行ったら戻れないとも聞きました。」


河原田は投稿を読みながら眉をひそめた。

奇妙な噂話として見るには、投稿の数が多すぎた。

同じアカウントから過去に投稿された内容をたどってみると、全て「友人の捜索」と関連しており、その友人とされる人物についての手がかりは一向に示されていない。

投稿者が添付した写真には一貫して同じ村の風景が写っているが、それが実在するのかすら曖昧だった。


「地図に載っていない村か……」


河原田は呟くと、ふと編集部で聞いた古い失踪事件を思い出した。

郊外の山間部で行方不明者が続出している、という未解決事件の噂だ。

その噂話と、この不可解な投稿に関連性があるのではないかという考えが頭をよぎった。

河原田はさらに調べてみることにした。

掲示板内を検索し、同じ場所について触れている投稿をいくつか見つけた。

それらの内容には一致する点がいくつかあった。


「見つけた友人は無言だった」

「自分も夢に見る」

「村の鳥居の写真を撮ったら、変なものが写った」


――不可解な話ばかりだが、いずれも直接的な証拠にはならない曖昧さが漂っている。

河原田は投稿者たちが載せていた写真を拡大して見た。

中でも気になったのは、古びた鳥居の写真だった。

その上部には見覚えのない漢字のようなものが掠れた状態で刻まれている。

さらに、写真の端には奇妙な模様のようなものが写り込んでいた。


「ただの作り話にしては手が込んでるな……」


河原田は投稿を読み進めながら、失踪事件の概要をまとめる企画記事を思いついた。

この村の噂に関連する投稿を調査し、失踪者リストと照合することで、もしかすると真相に近づけるかもしれない。


「これは記事になる……いや、なるかもしれない」


そう思い立った河原田は、職場に戻るとすぐに過去の新聞記事や警察の公開情報を調べ始めた。

過去20年で失踪事件が十数件発生していることがわかった。

どれも行方不明者の手がかりは見つからないまま捜査が終了していたが、不気味な共通点がいくつかある。

いずれの失踪者も出発直前、周囲の人々に奇妙な発言をしていたのだ。


「鳥居を越えたら消える」

「地図にはない場所に行く」


河原田は寒気を覚えた。これらの失踪者の言葉が、掲示板に投稿された「地図に載らない村」の話と一致していたからだ。

さらに調べていくと、ある不可解な事実に突き当たる。

これまでの捜索で目撃証言や痕跡が全く得られなかったにもかかわらず、失踪者のほとんどは行方不明直前に同じ方角へ向かっていた。


「もしや、この掲示板に書かれていることは……」


自分が踏み込もうとしているものが、単なる噂や都市伝説の域を超えている可能性を感じながら、河原田の心には不安と興奮が交錯していた。

小さな興味から始まった調査が、やがて何かとてつもない事実を掘り当てるかもしれない――そんな予感を抱えながら、彼は深く調べる決意を固める。

だが、この時点で河原田には知る由もなかった。

これが単なる噂ではなく、そして自分の命すら危険にさらすほどの恐怖の渦中へと足を踏み入れようとしていることを。

不気味な噂と未解決事件、その背後に潜む真相とは何なのか。

河原田卓也は、後戻りできない道を歩み始めてしまったのだった――。