2024年5月28日 午前3時14分


阿久津はマンションから脱出した後、自宅に戻り、一息ついた。

だが、気が休まることはなかった。

彼の手元には、河原田が残したノートとペンダントがあり、それらが不気味なほど存在感を放っていた。


「……これで終わりなわけがない……」


阿久津は疲れた表情でノートを開いた。

薄暗い部屋の中、ノートの文字が闇の中で静かに浮かび上がり、不気味に動いているように見えた。


ノートには異様な記述が並んでいた。

その中の一つに、こう書かれていた。


「扉は開かれた。犠牲者たちの血が新たな門を刻む」


さらにページをめくると、河原田の筆跡と思われる文字が見つかった。

そこには、次のように記されていた。


「阿久津へ──もしこれを読んでいるなら、俺はもう戻れない。だが、君にこの記録を託す。それを解読できれば、この呪いの連鎖を止める手がかりになるかもしれない」


河原田の筆跡が途切れると、その後に異質な記号と文字列が続いていた。

それはまるで、言葉では説明できない何かを象徴しているようだった。

阿久津は意を決して、ペンダントに目を向けた。

それは黒い石でできており、触れると冷たい感触が手に伝わった。

同時に、頭の中に低い囁き声が響き渡った。


____……私を封じるものを解け……



阿久津はその声を無視しようとしたが、ペンダントが次第に光を帯び、周囲の空間が歪み始めた。

彼は恐怖で後ずさるが、ペンダントは離れなかった。それどころか、強烈な力で彼の手に吸い付いて離れなくなった。


「やめろ……!」


声を張り上げた瞬間、部屋の空気が重くなり、壁に無数の影が浮かび上がった。

それらの影はじっと阿久津を見つめ、囁き続けていた。


「帰る道はない……すべてが繰り返される……」


ペンダントをどうにか振り払おうとしたが、手が痺れるほどの力で固定されてしまった。


突然、テレビがノイズ混じりに映像を映し出した。

それは、阿久津がマンションで撮影した映像だった。

だが、記憶にない場面が再生されていた。

映像には、河原田が暗い廊下を歩いている姿が映っていた。

しかし、その背後には、不自然な影が付きまとっていた。

河原田はそれに気づかない様子で奥の部屋に向かっていた。

映像の最後には、河原田が祭壇の前で何かを唱えた後、突然消える瞬間が映し出された。

そして、その後の数秒間、映像には阿久津の顔が浮かび上がり、彼の名前を呼ぶ声がノイズ混じりに聞こえた。


「阿久津……お前も……」


阿久津は映像を見終わった後、全身の力が抜けたように崩れ落ちた。

ノートとペンダントを手にしたことで、彼はすでに呪いの連鎖の中に取り込まれていることを理解していた。


「……俺はどうすれば……」


呟いた瞬間、ペンダントが強く輝き、部屋全体が光に包まれた。

次の瞬間、阿久津の姿は部屋から消え去っていた。